「危機の中で明日を拓く CFO“新論”」

投資銀行に任せられないM&Aの本質

買収当事者だからこそできる緻密な青写真作り

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2009年3月16日(月)

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 M&A(合併・買収)は、1+1を2ではなく、3にも4にもしていくための手段です。そのために、最要なポイントとは何でしょうか。

 CFO(最高財務責任者)在任中、潤沢な手元現預金の使途として、M&Aの可能性について、投資銀行、投資家など外部から質問や意見を数多く受けました。その中には、正直、会社のM&Aを商品の売買と錯覚しているのではないかと思いたくなる意見もありました。

事業のコアコンピタンスと「人材」の理解が重要

 自身で事業を成功に導くコアコンピタンス(価値を産み出す中核となる競争力)や事業のMomentum(勢い)を持たずして、M&Aを実行しても、1+1が単に2になるだけ、いや下手をすると2未満にすらなってしまいます。M&Aは、時間を買うために実行するのです。しかし、時間を買うつもりが、時間を浪費しかねないリスクを伴っているのです。

 なぜなら、日々、顧客のニーズと競争し、他社と競争しているうえに、M&Aに伴う統合という更なる負荷を背負うからです。いくら外部からM&Aをはやし立てられても、誰かがM&Aに伴う統合作業をしてくれるわけではありません。

 今いるわれわれ一人ひとりにその負荷が重畳してくるのです。競争他社から見ると、われわれのM&Aは、一見脅威ですが、われわれの日々の仕事に隙が生じかねないため、チャンスでもあるわけです。

 特に重要な点が人的側面にあります。M&Aは究極の経験者採用です。それも大量の採用です。ここに大きなチャレンジがあります。なぜなら異なる文化を背負った数多くの人材が、突然仲間になるからです。実際英ギャラハーの買収以前、海外たばこ事業の社員は1万2000人でしたが、この買収で社員は2万3000人とほぼ倍増しました。

 さらに、人的側面では大きなハードルがあります。それは、買収発表まではわずか20人そこそこの社内チームで準備してきたプロジェクトが、買収発表後一気に2万3000人を巻き込んだ作業に変貌するという事実です。

 買収側も被買収側も、突然知らされた大多数の人は、買収後自分がどうなるのか、職はあるのか、昇進するのか降格になるのか、様々悩み始めます。最悪の場合、日々の仕事どころではなくなるのです。

 したがって、自らの事業とそのコアコンピタンス、勢いをよく理解し、また、事業を支えているキーとなる人材を理解することが、M&Aを成功させる秘訣です。つまり、少々の擾乱があってもびくともしない事業の勢いが、自らにあるのかどうかを見極めること、そして、M&Aをした後、どう人をリードすることで、ネガティブな結果を回避し、成果を上げることができるのかを洞察することが重要です。

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著者プロフィール

新貝 康司(しんがい・やすし)

新貝 康司日本たばこ産業取締役。JT International, SA 副社長、副CEO、最高財務責任者。1980年京都大学大学院電子工学課程修士課程修了後、専売公社(現JT)へ入社。たばこの工場現場を経験後、経営企画部で企業買収案件に従事。1989年、同社ニューヨーク事務所所長代理、1990年JT America Inc.社長。以後6年にわたり、抗HIV薬Viraceptの開発等、米国製薬・バイオベンチャーとの数々の共同研究開発提携案件を発掘。1991年から米国NASDAQ上場バイオベンチャー企業Cell Genesys, Inc社外取締役を兼任。1996年、JT本社に戻り経営企画部部長として中期経営計画、企業変革プログラム、企業買収プロジェクト(鳥居薬品、旧RJR International)等、全社経営企画業務を担当。2001年、JT財務企画部長に就任。全社の中期経営計画、経営管理、財務戦略を担当。企業買収、事業売却も手がける。2004年、JT執行役員財務責任者(CFO)に就任。05年取締役に就任(現任)。06年、日本、中国以外のたばこ事業の世界本社であるJT International, SA(ジュネーブ)の副社長(現任)、副CEO(現任)に就任。ギャラハー社買収と統合を指揮。2007年 JT Internationalの最高財務責任者も兼任、現在に至る。



このコラムについて

危機の中で明日を拓く CFO“新論”

日本企業の財務・経理部門は“職人”的な集団になってしまいがちです。しかしCFOはCEOの財務面でのブレインであり、経営者そのもの。危機を乗り切る経営には、この財務のブレインの存在はますます重要になるでしょう。国内最大規模のM&Aはじめ、数々のベンチャー企業の立ち上げや買収などを通して考えた、理想のCFO、そして理想のリーダー論を展開します。

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