「リーダーシップ」は、特別な一部の人のみに宿るものではなく、全ての人の中にあるものです。1人では実現できない何かを実現したいと思い、他者に働きかけ、協力を仰ぎ、その実現を目指す力こそがリーダーシップなのですから。
友達と一緒に空き地で基地を作ること。恋人を映画に誘うこと。ホームパーティーを催すこと……。日常のちょっとしたことでさえリーダーシップなしでは実現しませんし、リーダーシップを取ったことのない人は一人もいないはずです。
リーダーシップは“力”ですから、それが大きい人と小さい人がいます。そして、より大きなことを実現しようと思えば、より大きいリーダーシップが必要です。
本コラム「リーダーシップは磨くもの、磨けるもの」が、自分のリーダーシップが小さいと感じている方にとっても、それを大きくするために必要なことを学び、試し、実際に職場で大きく発揮するためのヒントになれば、大変嬉しく思います。
リーダーが身につけるべき行動特性の一つに、「必要なときに必要な決断ができる」ということがあります。部下の側に、「上司に対する不満は何か」と聞くと、非常に多くの人が、「自分の上司は決めてくれない」と答えます。
先日、ある企業で、私のエグゼクティブコーチングのクライアントの部下の方に、インタビューをさせていただきました。部下の立場から見て、クライアントが日々どのようにリーダーとして振舞っているかリサーチをするためです。
部下の方は開口一番、こう言いました。「とにかく上司は “決めない”ですね。正直、同僚も困っています。ひたすら決めることから逃げている感じです」。
私は、思わず聞きました。「なんで決めないんでしょう」。すると彼は即座に返事をくれました。「責任を取りたくないんでしょうね」。
当然のことながら、物事を決めるときには“責任”が伴います。
リーダーの仕事は「方向を示すこと」
自分だけに影響が及ぶことであれば決断できても、他人を巻き込むような事柄に対しては決められない人がいます。責任追及されることを避けたいと考えるからです。意識的にそう思っているわけではないでしょうが、根底には責任を取ることに対するおそれがあります。
身近な例で考えてみましょう。レストランに行く場合、1人であれば影響の範囲が自分だけですから、どんな食べ物を注文しようが、選んだ責任を意識する必要はありません。
一方、2人でレストランに行き、サラダとパスタをシェアすることになって、注文決めを相手から求められる。この場合、決定の影響範囲が相手にも及びますから、決めれば責任が生じます。「これ、あまり美味しくないね」「あっちのパスタにすればよかったのに」という苦言を受けて立つ覚悟が、(大げさに言えば)必要になります。
リーダーの大きな仕事の一つは「方向を指し示すこと」です。大きなものから小さなものまで、絶えず他人に影響が及ぶようなジャッジを求められます。それは、いかなる場面でも責任を引き受ける覚悟が求められることでもあります。
もし、いまここにリーダーという役割を担いながらも、決めることが苦手な人がいたら、その人をどうコーチすることができるでしょうか。
「リーダーなんだから決めろよ。責任取れよ」という言葉で、その人の決断力が高まれば苦労ないわけですが、事はそう簡単にはいきません。「決めなければならない」という状況に置かれたとき、どう“心”が動き、その結果どう“行動”を起こすかは、かなりの程度、その人の中でパターン化されているからです。つまり、心の動き方も、行動の選択のしかたも“意識の外”にあります。つい、そうなっちゃうんですね。
私は「早々に決めてしまう上司」になりがちで、決める前にメンバーの考えを聞くように努力しています。(2009/03/24)