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裁判員とユダヤ博物館を繋ぐもの

2009年、今「表現の倫理」を考える

2009年3月31日(火)

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 2008年11月、全世界が米国のバラク・オバマ大統領当選の報に沸き立つさなかに、1つの長い裁判が結審しました。今回はこのケースからお話を始めたいと思います。

 1993年、米国カリフォルニア州在住のサラ・ウィアーさん(当時19歳)が何者かに殺害されました。全身29カ所を鋏で刺されての惨殺でした。容疑者としてダグラス・オリヴァー・ケリーが逮捕され、陪審裁判の結果死刑の判決を下されました。米国では死刑判決には陪審の全会一致が必要です。そしてこの裁判で、法廷に提出された「証拠」が、問題とされたのです。

 法廷には「被害者の心の傷の証拠Victim’s Impact Evidence」として、生前のサラの思い出を編集した20分ほどのビデオが提出され、放映されました。誕生パーティー、ピクニック、卒業式…。しかもそのビデオは、被害者の養母で、自身も長年カリフォルニア州で弁護士を務めてきたマーサ・ファーウェルが編集したものだったのです。

弁護士の養母が法廷に出した「音楽つきビデオ」証拠

 サラはブラックフット族ネィティブ・アメリカンの血を引いてカナダ・アルバータ州で生まれ、赤ん坊の時マーサの養子として引き取られました。ビデオは短かったサラの19年の生涯を振り返るもので、淡々とした「母=弁護士」であるマーサの朗読が、アイルランドのシンガーソングライター、エンヤの楽曲とともに編集されています。ロサンゼルスの弁護士でもあるマーサは、「エンヤの曲はサラが生前好きだったもので、被害者の人格を表す証拠の一部」として、証拠の有効性を主張しました。

 一方、ケリー被告はこの事件を冤罪だとして無罪を主張します。陪審員はサラの短い人生と非業の死に同情して、全会一致で死刑判決を支持しますが、ケリー被告がやった、という証拠は十分にそろってはいませんでした。それでも裁判自体は95年に死刑判決が確定します。この際、カリフォルニア州の法廷は、こうしたビデオの証拠採用には極めて慎重であるべきだという意見をつけました、

 冤罪を訴えるケリー被告は、この音楽つきビデオが「陪審員の心を動かすこと」で「正確な判断を誤せられ」「自分に死刑の陪審決議がもたらされた」として判決の無効を主張します。確定死刑囚が法廷自体の「マインドコントロール性」を訴えて反訴するという、極めて特異なケースとなりました。

 今、米国の陪審制度とも通じる部分の多い「裁判員制度」の導入を進めるうえで、多くの日本人が詳細を知ってよい事件であり、裁判だと私は思います。

 10年以上の「マインドコントロール反訴裁判」の末、2008年11月、米国最高裁判所はケリー被告の訴えを退けました。「音楽つき思い出のビデオ」は被害者側の証拠として採用される、という最高裁判例が出たわけです。これに先立つ同年10月、日本では「神隠し殺人事件」への「公判前整理手続き」の適用が決定されており、米国のこのケースが日本の検察当局に影響を与えた可能性も指摘されています。

感情を揺さぶる「ビデオ証拠」

 このケースを短絡的に、米国最高裁が「犠牲者の思い出を綴った音楽つきビデオ」一般を証拠採用した、などと考えるべきでは、絶対にありません。

 ビデオを自ら編集し、朗読も行ったのは、被害者家族であると同時に、プロのカリフォルニア州弁護士でもある養母です。「訴訟大国」米国で、被告から反訴されても証拠力を失わないように、慎重に慎重を期したもの、と考えるべきでしょう。

 しかしその中で「音楽」について「被害者の人柄を示す」という実態不明の表現が用いられて、米国最高裁が結果的にそれを認めたことに、一音楽家として私は注目せざるを得ません。

 私たちは日常的にテレビやラジオ、インターネットなどでCMを目にし、その音声を耳にします。コマーシャルを知ったことがきっかけで、購入を決意することは少なくありません。このように、自らの「意思決定」を外部の影響で左右されることを「マインドコントロール」といいます。

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