脳科学のアプローチを応用して、人間の潜在意識に基づく消費行動を解明しようとするニューロマーケティング。にわかに注目を集めるこの新しい試みを脳科学者の側はどう見ているのだろうか。
新進気鋭の脳科学者で、電通4324やカネボウ化粧品などと共同でニューロマーケティングの研究にも取り組んでいる茂木健一郎氏へのインタビューを2回にわたってお届けする。
茂木氏はまず、ニューロマーケティングの代表的な成功例として米グーグルを挙げる。さらに、絞り込んだ対象に最適と思われる商品や広告を訴求する「ターゲティング」はマーケティングの主流になり得ないと指摘する。
── 茂木さんが、ニューロマーケティングに関わるようになったきっかけは。

茂木健一郎 ご存じのようにニューロマーケティングは、行動経済学や神経経済学の流れを受けて出てきた研究分野です。
行動経済学は、米プリンストン大学教授のダニエル・カーネマン氏らがノーベル経済学賞を受賞して一躍、脚光を浴びた新しい経済学です。カーネマン氏らは、不確実性が存在する時に人間がどのような選択をするかということをずっと研究してきた。その成果が受賞に結びつきました。
不確実性が存在する中で、人間の脳はどのように価値を判断し、欲求に基づいて選択をするのか。カーネマン氏らがテーマとして追究したこの問題意識を考えると、行動経済学から派生したニューロマーケティングが、脳科学のメーンストリームの研究と深く関係していることが分かるでしょう。
脳の研究者としての私のライフワークは、人間の心の中で感じられる質感のメカニズムを解き明かすことです。このメカニズムを私は「クオリア」と呼んでいます。
このクオリアを研究する中で、欲求や価値観の問題や不確実性の問題は避けて通れません。ですから、自分の研究の流れの中で、ニューロマーケティングと呼ばれる分野への関心も自然と育まれてきたのです。
脳科学の応用自体は新しいものではない
── 電通やカネボウ化粧品といった企業から共同研究の話が来て、戸惑うことはなかったのですか。
茂木 それはありません。「ぜひやりましょう」と最初から積極的でしたね。
特に化粧品は、自分のイメージがどのように社会的な関係の中でできるのか。難しい言葉を使えば、「自我の社会的構築」という問題と深く関わっています。これは脳科学者が非常に興味を抱いている問題です。さらに女性の欲求の問題とも関係がある。ですから、テーマとしても面白いと思いました。
また、カネボウにしても電通にしても、企業はビジネスの最前線で非常に現実的な問題を抱えています。過去の科学の歴史を見ると、非常に現実的な問題があるところには、必ず科学的な深い問題が潜んでいる。その解明に取り組めるという点からも、「ぜひやりたい」と思ったわけです。
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