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「教育費をタダにせよ」

親の所得格差が生み出す教育格差は亡国への道

2009年4月8日(水)

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 教育費が無料の国がある。鉛筆1本、ノート1冊までタダ。給食費もかからない。それどころか、16歳まで国から児童手当が支給されるし、高校に行けば卒業するまで児童手当の支給期間が延長される。うまくやりくりすれば、子どもの洋服代などの生活費を負担する必要もない。

 「義務教育は無償」。どこかの国の文部科学省に問い合わせても、きっとこう答えるに違いない。だが、この国の義務教育は文字通りの義務教育。親の所得に関係なく、高校まで学校に通うことができる。

子どもを産み、生きることに不安のない国

 もちろん、大学の授業料も無料である。手厚い奨学金制度があるため、学びたい人は親の所得に関係なく、意志と力で大学に進学できる。

 この国の名はスウェーデン。人口900万人。高福祉で知られる北欧の小国である。子育て、教育、失業給付、医療、介護、年金――。人生の様々なステージで手厚く支援するスウェーデンは、子どもを産み、生きることに不安のない国と言えるだろう。

 「教育費タダ」。これだけが、スウェーデンの教育の特徴ではない。主な特徴を、思いつくままに列挙してみよう。

1. 幼児教育を大切にしており、就学前教育が手厚い。
2. 日本の感覚では信じられないが、中学2年生まで成績表がない。さらに、塾や家庭教師というものは国のどこにも存在していない。それでも、教育全体のレベルは世界でもトップクラスである。
3. 英語をはじめとした外国語能力が全体的に高い。小学生や中学生でも普通に話せる。
4. 残業や部活動に忙殺される先生はほとんどいない。スポーツや趣味に参加したい生徒は、後述する地域の学習サークルに参加している。
5. 1クラスの生徒数が少ない。就学前教育では先生1人につき生徒は6人。小学校から高校を見ても、1クラス20人前後である。
6. 高校卒業後、すぐに大学に進学する学生はそれほど多くない。徴兵制度があるため、徴兵を済ませた後に、または企業に勤めた後、社会活動などを経験した後に大学に進学する人が多い。25歳以上で4年以上就職をして税金を支払った人だと、医学部のような特別な学部を除いて無条件(行く大学は高校の成績で決まる)で入学できる。
7. 教科書は個人の所有物ではない。数年間は先輩から後輩に引き継がれ、毎年配布されることはない。ちなみに、日本は2008年度、教科書だけで395億円の予算を計上している。
8. ICT(情報通信技術)の活用がとても盛ん。家でもほとんどパソコンを使用している。教員に対するICT教育も重点的に行っている。
9. 900万人の国民のうち、300万人が何らかの学習サークルなどの成人学習機関に参加している。学習サークルの運営は、約75%が税金で補助されている。

 ざっと思いついただけでこれだけのことが思い浮かぶ。スウェーデンの教育の特徴はまだまだあるが、私たちの住む国とは相当に違うことが分かってもらえるのではないだろうか。

スウェーデンでは、親の所得に関係なく高校まで通うことができる(写真:Niklas Larsson) 

子ども1人を大学まで進学させるのに1000万円かかる日本

 翻って、日本はどうか。子ども1人を大学まで進学させるためにかかる費用は、公立の学校に通ったとしても、1000万円を超えるコストが必要だと言われている。私立であれば、その倍は優にかかるだろう。日本の平均給与は約437万円(国税庁平成19年分民間給与実態統計調査結果より)。この中で、子どもの教育費を払い続けるのは至難の業と言っていい。

 事実、この10年で給食費も払えない家庭が増えた。母子家庭の中には、義務教育すら困難な子どもが増えている。今回の不況によって、その数はますます増えるだろう。親の所得によって、教育の格差がつく――。それが、この国の現状である。

 崩壊しているのは教育制度だけではない。年金や医療、介護、雇用など、日本の社会システムは様々なところに歪みが出ている。「子どもを産み、生きることに不安がない国」。冒頭でスウェーデンをこう評した。「社会の安心感」という点について、スウェーデンとはあまりに対照的な姿である。

制度を真似るだけでは安心感のある国にはならない

 スウェーデンとの出会いは34年前の1975年にさかのぼる。大学の卒業研究のために、スウェーデンとデンマークに留学したことが直接のきっかけだった。卒業研究は「北欧の教育」。そのため、留学期間中、老人ホームや学校、病院、アルコール中毒患者の施設などを訪問した。施設にいる人々の笑顔の多さが印象に残っている。

 この訪問で何よりも驚いたことは、学校での1クラスの生徒数の少なさ。そして、子どもたちに「スウェーデン人である前に地球人である」と教えていたことだ。地球に生を受けた人間として、私たちはどのような行動を取るべきなのか――。この視点を、小学生に教えていたのだ。この言葉は衝撃的だった。

 その後、ビジネスや教育プロジェクト、先日の「この国のゆくえ」で紹介したサムハルなどを通して、スウェーデンと深い関わりができた。ビジネスと福祉、教育を知る数少ない人間の1人と自負している。

 「高福祉高負担で社会を運営する」。それが、スウェーデンモデルと言われている。この10年、スウェーデンモデルは様々な形で日本に紹介されてきた。だが、国民負担率を上げ、同様の制度を導入すれば、同じように安心感のある国になるのだろうか――。恐らく、そうはならないだろう。

政府と国民との間の信頼とチェック・アンド・バランスが不可欠

 スウェーデンモデルとは、単なる高福祉高負担の社会システムではない。スウェーデン国民は、国家は父であり、大地は母と捉えている。国家と大地に暮らす国民は学習し、様々な義務を果たし、協力して社会を構築していく。私の理解では、スウェーデンモデルとはこのシステム全体のことを指している。

 このモデルを機能させるには、政府と国民の間の信頼とチェック・アンド・バランスが不可欠だ。だからだろう。スウェーデンには高度に発達した民主主義があり、19世紀の昔からオンブズマン制度が存在する。制度を入れたところで、この社会全体のシステムなくして機能はしない。

 世界が注目するこのモデルを、スウェーデンはどのように進化させてきたのだろうか。政治が要因なのか、宗教なのか、それとも産業力なのか――。そのことを自問してきた。そして、私なりに1つの結論に到達した。それは、教育である。

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