「呼び出しボタンを押してもエレベーターがなかなか来ない」「いつもエレベーターの中が混雑している」。自分の職場や訪問先のオフィスで、こんなイライラを経験したことがある人は少なくないだろう。
一般に高層ビルほど広いエレベーター用のスペースが必要になる。各フロア面積の2割程度をエレベーターと乗り場が占める場合も珍しくない。しかし、オフィスに利用できる面積をなるべく広くしたいビルの所有者の意向もあり、利用者が十分に満足できるエレベーターの数を確保するのは難しい。
そんな悩みを解決する新しいエレベーター技術を、日立製作所が開発した。「循環式マルチカーエレベーター」だ。たくさんのゴンドラがついた観覧車のように、2つの昇降路の中を乗りかごがグルグル回る仕組みだ。2基分のスペースで、これまでのエレベーター5基分の輸送能力を持たせた。
実は循環式マルチカーエレベーターの基本アイデアは100年以上前からあった。20世紀半ばまでドイツやオーストリアを中心に、大学やオフィスで導入された。ただしこの方式は事故が多いという致命的な弱点があった。扉がなく、すべての乗りかごはゆっくりとしたスピードで常に動き続ける。利用者が自分で飛び乗り、降りたい階で飛び降りる仕組みに問題があった。車いすの人や高齢者などが挟まれる危険性があるため、その後、多くの国で禁止された。
最新技術でこのアイデアを甦らせ、進化させたのが、日立の機械研究所のプロジェクトリーダーである寺本律氏だ。「省スペースで輸送能力が高いエレベーターを作りたかった。リニアモーターを使って乗りかごを自在に動かす方式も考えたがコストが合わず、最終的に循環式マルチカー方式に落ち着いた」(寺本氏)。
日立は2006年3月に循環式マルチカーエレベーターの基本駆動技術を完成させた。その技術開発には、いくつものハードルがあった。
まず安全性の問題だ。扉をつけて安全に乗り降りできるようにするには一つひとつの乗りかごが独立して動き、任意の階で止まる必要がある。
そこで寺本氏は、各乗りかごをそれぞれ独立したワイヤロープで駆動する方式を考案した。環状になった東日本旅客鉄道(JR東日本)の山手線を思い浮かべると分かりやすい。同じレール上を走る多数の列車が、独立して走行、停車し、乗客を乗り降りさせている。
もう1つの課題は省エネだった。通常、エレベーターは滑車を挟んで乗りかごの反対側の位置にワイヤロープで「釣り合い重り」をつけている。両者のバランスを取ると巻き上げモーターの負荷を少なくできるため、重りがない場合と比べて、2分の1から3分の2の省エネ効果がある。
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