「第三企画室、出動す 〜ボスはテスタ・ロッサ」

episode:1
「減るわけじゃない? 減るんだよ。こうやって、実際にわたしの人生が」

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2009年5月11日(月)

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 やはり部長は〈あのこと〉を知っている。

「人事のことなんだが」

 声をひそめながら部長の菅原仁志が話し始めたその言葉を聞いて、風間麻美は跳び上がって喜びそうになった。

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「新しくできる部署があるらしいんだが、人事から君に白羽の矢が立ったみたいでね」

 わざわざ加藤課長が席を外したタイミングを見計らって自分を呼んだのだ。

「ちょっと変わった場所らしいが、君には向いていると思う」

 向いていようがいまいが、どちらでもよかった。あの課長から逃れられるのなら。本来ならアイツが異動するべきだ。けれど、笑ってしまうほど古い、マンモスのようなこの会社のロジックはわかっている。

 使い捨てとまではいわないが、あくまでも女性社員は補助的な役割でしかないのだ。社内結婚率22パーセント。それほど高くないようだが女子従業員の方が少ないから、女子に限れば4割を超えるといわれている。

 コンプライアンスのかけ声がかけられ、ルールは整備されている。だから、自分はそれを利用した。絶対に自分からはこの会社を辞めない。会社の本音がどうであれ、建前を通してやる。そう思った。

 人事相談室。別名セクハラ相談室。部屋の外に部署名表示のない場所。上司にもみ消されることのないように人事部直轄になっている。場所も離れた別棟にある。しかも予約を入れておけば、毎週水曜の定時退社日も残業時間に門戸を開いている。きちんと駆け込み寺として機能するように、ほかの事務所や工場に勤務する人への配慮だ。

 大日本鉄鋼株式会社は老舗の製鉄会社だ。かつて鉄は国家なりといわれ、産業の米といわれ、日本の経済発展を支えた。

 堅い会社に勤めたはずだったが、一方で古い体質の会社だ。

 21世紀とは思えない。メーカーはみんなそうだといわれるかもしれないが、テレビドラマじゃあるまいし、女子従業員は工場だけでなく本社まで制服着用。こともあろうに今どき膝が出る丈のスカート! 男の妄想を刺激するようなユニフォームにするから、事件が起きてしまうのだ。いや、このスカート丈が社内結婚率22パーセントを支えているのかもしれない。たしかに女子社員には、裾を縫い直してできるだけスカートを長く見せようとするグループと、それとはまったく反対のことをするグループがある。

 わたし?

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著者プロフィール

阿川 大樹(あがわ・たいじゅ)

小説家、コラムニスト。1954年、東京生まれ。日本電気(NEC)およびアスキーで半導体LSI開発エンジニアおよび半導体部門事業責任者。1991年より、米国シリコンバレーの半導体ベンチャー企業の設立に参加。1997年、小説家に転身。1999年、サントリーミステリー大賞優秀作品賞。2005年、ダイヤモンド経済小説大賞優秀賞。著書にはシリコンバレーで起業する日本人技術者と巨大資本の闘いを描いた『覇権の標的』、最新刊は『フェイク・ゲーム』。横浜市の元特殊飲食店街・黄金町に仕事場「黄金町ストーリースタジオ」を構え、地域の人と共に、町の再生プロジェクトにも参加している。日本推理作家協会会員。



このコラムについて

第三企画室、出動す 〜ボスはテスタ・ロッサ

「ものづくり」の栄光にも、金融のゲームにも、なりゆきまかせの楽観論にも頼らずに、日本企業の未来を拓く。隣が何をしているのかさえ分からない大組織どうしの思惑が絡み合う巨大な経済の中で、大きな目的を与えられた個人たちに何ができるのか。製鉄会社「大日本鉄鋼」に極秘裏に組織された「第三企画室」が、走り出す。

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