やはり部長は〈あのこと〉を知っている。
「人事のことなんだが」
声をひそめながら部長の菅原仁志が話し始めたその言葉を聞いて、風間麻美は跳び上がって喜びそうになった。
「新しくできる部署があるらしいんだが、人事から君に白羽の矢が立ったみたいでね」
わざわざ加藤課長が席を外したタイミングを見計らって自分を呼んだのだ。
「ちょっと変わった場所らしいが、君には向いていると思う」
向いていようがいまいが、どちらでもよかった。あの課長から逃れられるのなら。本来ならアイツが異動するべきだ。けれど、笑ってしまうほど古い、マンモスのようなこの会社のロジックはわかっている。
使い捨てとまではいわないが、あくまでも女性社員は補助的な役割でしかないのだ。社内結婚率22パーセント。それほど高くないようだが女子従業員の方が少ないから、女子に限れば4割を超えるといわれている。
コンプライアンスのかけ声がかけられ、ルールは整備されている。だから、自分はそれを利用した。絶対に自分からはこの会社を辞めない。会社の本音がどうであれ、建前を通してやる。そう思った。
人事相談室。別名セクハラ相談室。部屋の外に部署名表示のない場所。上司にもみ消されることのないように人事部直轄になっている。場所も離れた別棟にある。しかも予約を入れておけば、毎週水曜の定時退社日も残業時間に門戸を開いている。きちんと駆け込み寺として機能するように、ほかの事務所や工場に勤務する人への配慮だ。
大日本鉄鋼株式会社は老舗の製鉄会社だ。かつて鉄は国家なりといわれ、産業の米といわれ、日本の経済発展を支えた。
堅い会社に勤めたはずだったが、一方で古い体質の会社だ。
21世紀とは思えない。メーカーはみんなそうだといわれるかもしれないが、テレビドラマじゃあるまいし、女子従業員は工場だけでなく本社まで制服着用。こともあろうに今どき膝が出る丈のスカート! 男の妄想を刺激するようなユニフォームにするから、事件が起きてしまうのだ。いや、このスカート丈が社内結婚率22パーセントを支えているのかもしれない。たしかに女子社員には、裾を縫い直してできるだけスカートを長く見せようとするグループと、それとはまったく反対のことをするグループがある。
わたし?
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