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episode:2
「旭山、お前はこの不景気はどのくらい続くと思う?」

  • 阿川 大樹

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2009年5月12日(火)

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 受話器を置いた旭山隆児は、さっきまで本を読んでいたテラスにもどった。

 眼下には江ノ電の駅がある。クラブ活動の帰りらしく、日曜日なのに駅には数人の高校生が制服で列車が来るのを待っている。

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 遠く沖には、柔らかい三月の風を受けたヨットが滑るように走っていた。どの船も舳先を西に向けている。江ノ島湘南港へもどるのだろう。

 予期せぬ電話のせいで灰皿のタバコは燃え尽き、支えを失ったフィルター部分がモザイクタイルのテーブルに落ちていた。可南子が生きていたら叱られるところだ。新婚の頃、ホームセンターで安く買ってきたテーブルをタバコで焦がして、可南子にこっぴどく怒られた。火事になったらどうするのと彼女はいったが。自分は真新しいテーブルが焦げたことが残念だった。以来、部屋でタバコを吸うのは禁じられ、いわゆるベランダの蛍族になった。

「そんなにまでして吸いたいものなの?」

 冬の夜、凍えながらベランダから部屋にもどると、可南子はいつもそういって呆れたというように肩をすぼめたものだ。

 随分と時間が経ったが、あいかわらずタバコはやめられない。

*  *  *

 電話をかけてきたのは、古巣である大日本鉄鋼の会長・松宮賢一だった。

「どうです?」

 挨拶代わりに景気のことを聞く。

「ひどいもんだ。知ってるだろうが自動車が売れない。建設も急に萎んだ。おまけに円高で収入は目減りだ」

 どうしようもないよ、という声はむしろ笑っているような言い方だった。

 鉄鋼の需要は劇的に落ち込んでいた。伸び盛りの中国ですらダメらしい。

「鉄鋼連盟の2008年2月の予測では、中国の鉄鋼需要は2010年から2015年にピークを迎えるだろうということだったんだ。半年後もそのペースは続いていた。だが、11月には誰も先のことがわからなくなった。北米はいうに及ばずだ。だいたいアメリカで自動車の売上が前年同月比で半減するなんてことは人類の歴史で初めてのことだ。アポロが月に着陸したくらいの大事件さ」

 サブプライム。リーマンショック。世界同時不況。テレビも新聞も去年の秋口から不景気一色だ。とうにビジネスの世界から離れているというのに、隆児はテレビを点ければニュースばかり見ていた。目の前で起きている世界の出来事ほど面白いものはない。そういう性分なのだ。海の見える家で趣味に没頭して悠々自適に生きていくつもりでも、ついつい政治や経済のニュースを追いかけてしまう。

「鉄のことは、まあいい」

 日曜日に話す話題としてふさわしくなかったとでもいいたげに、松宮は自分の話を切った。

「どうだ。ちょっと一杯やらないか」

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