「鈴木友也の「米国スポーツビジネス最前線」」

新ヤンキースタジアム、高収益のカラクリ

クラブシートの魔力(上)

バックナンバー

2009年5月14日(木)

1/3ページ

印刷ページ

 松井秀喜選手が所属する米大リーグ機構(MLB)のニューヨーク・ヤンキースが今シーズンから新スタジアムをオープンしたことは日本でもご存じの方が少なくないと思います。ヤンキースの今シーズン開幕戦は、4月6日のボルチモア・オリオールズ戦でした。今年から上原浩治投手が所属している球団です。

 ところが、この開幕戦は新ヤンキースタジアムではなく、敵地のボルチモアで開催されました。米国の4月はまだ寒い日も多いため、北部のチームが南部に遠征して開幕を迎えるのが普通です。ニューヨーカーにとっては残念なことではありますが、実は、この日、まだ誰もいないはずの新スタジアムで、あるパーティーが開催されていました。

 「VIPビューイング・パーティー」

新ヤンキースタジアムでのパーティー(著者撮影)

 こう名づけられたイベントは、今年からヤンキースの公式スポンサーとなったデルタ航空が主催したもの。バーやレストランが併設された豪華なクラブシート「デルタSKY 360°スイート」のラウンジから、巨大スコアボード(約18メートル×31メートル)で開幕戦を観戦しようという贅沢なイベントです。ラウンジに足を踏み込むと、制服姿の機長やキャビンアテンダントが出迎えてくれます。元ヤンキース選手で、日本でも1980〜82年まで読売ジャイアンツでプレーしたロイ・ホワイト選手のサイン会もあり、魅力満載の内容でした。

 クラブシートは日本ではまだ馴染みが薄いかもしれませんが、米国のスポーツ界では広く浸透しています。専用ラウンジやバー、レストランにアクセスできる高級席で、スポーツファンにとって憧れの場所です。新ヤンキースタジアムでも、広さ約1529平方メートルの「デルタSKY 360°スイート」が完成していました。バックネット裏の1200席に座るファンだけがアクセスすることができる空間には、ソファや高級調度品が設置されています。15億ドル(約1500億円)もの巨費を投じて完成された新ヤンキースタジアムには、他にも7種類のクラブシートが設置されており、クラブシートの座席数だけで約4000席と、スタジアム全座席数(5万2325席)の1割弱にも及びます。

 昨年4月、デルタ航空はノースウエスト航空との合併に合意して、事実上世界最大の航空会社となっています。それだけに、人気球団のヤンキースの本拠地にクラブシートを設置するのは頷けます。ところが、デルタ航空は、ヤンキースばかりでなく、ライバルのニューヨーク・メッツとも10年来のスポンサーシップ契約を結んでいるのです。そして、メッツ本拠地として今年からオープンしたシティ・フィールドでも、同様にクラブシートの命名権を購入しています。そして、ヤンキースタジアムのイベントのわずか3日後、同様のパーティーを開催していました。

シティ・フィールドでのパーティー(著者撮影)

 巨大マーケットとはいえ、ニューヨークの2チームとスポンサー契約を結ぶことは、大胆な戦略に見えます。昨年のリーマンショックに端を発した世界同時不況の真っただ中、多くの企業は宣伝広告費をカットしています。逆風の中、なぜデルタ航空は巨費を投じて攻めの一手を打ったのでしょうか?

 その答えは、まさにこのクラブシートに隠されています。この高級スペースこそ、ヤンキースとデルタ航空の両者にとって、経営を好転させるカギなのです。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント0件受付中
トラックバック
著者プロフィール

鈴木 友也 (すずき・ともや)

鈴木 友也 ニューヨークに拠点を置くスポーツマーケティング会社、「トランスインサイト」代表。1973年東京都生まれ。一橋大学法学部卒、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、マサチューセッツ州立大学アムハースト校スポーツ経営大学院に留学(スポーツ経営学修士)。世界中に眠る現場の“知(インサイト)”を発掘し、日本のスポーツビジネス発展のために“提供(トランス)”する――。そんな理念で会社を設立し、日本のスポーツ組織、民間企業、メディア、自治体などに対してコンサルティング活動を展開している。ほかにも講演、執筆でも活躍中。著書に『スポーツ経営学ガイドBOOK』(ベースボール・マガジン社、2003年)、訳書に『60億を投資できるMLBのからくり』(同、2006年)がある。中央大学商学部非常勤講師(スポーツマネジメント)。ブログ『スポーツビジネス from NY』も好評連載中。Twitterのアカウントはtomoyasuzuki

(写真 丸本 孝彦)



このコラムについて

鈴木友也の「米国スポーツビジネス最前線」

「スポーツビジネス先進国」と言われる米国。その市場規模や人気などで日本を凌駕する。そこでは、日本にいては思いつきもしない先進経営が繰り広げられている。だが、進みすぎたが故の問題も内包する。米在住のスポーツマーケティングコンサルタントが、米国スポーツビジネスの現場を歩き、最新トレンドを解説していく。
果たして、米国は日本スポーツ界の「模範解答」となるのだろうか?

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン