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episode:8
「このマンションの一室で、いったい何をやればよいのか。」

  • 阿川 大樹

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2009年5月20日(水)

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「コーキくん、じゃあ、最初の仕事、お願いしようかな」

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 風間麻美に言われた楠原弘毅は、小さく舌打ちした。待ちに待った配属だったはずなのに、いきなりやる気をなくした。

 第三企画室勤務を命ず。

 2カ月半の新入社員研修が終わっていよいよ配属が発表になった。配属辞令にはそれだけが書いてある。人事からの説明は配属先の部署名と上司となる室長の名前だけ。部署名からは何をするところなのか、想像もできない。事業部名がないのは、本社なのだと聞いたが、組織表にも載っていないし、聞けば場所は本社ビルではないといわれた。「企画」という言葉の響きは悪くなかった。だが、自分は工学部の出身だ。就活のときからエンジニア以外考えたことがない。

 頭に描いていたのは、世界的企業の最新鋭の工場で実験を繰り返し、新製品を開発する自分の姿であり、測定器や実験装置に囲まれた職場であるはずだった。部署名で例えるなら、「北九州製鉄所生産技術部」とか「川崎研究所物性研究部」とか、「呉システムラボラトリー制御システム開発部」とか。

 ところが配属された職場はマンションの一室で、部屋は伽藍堂(がらんどう)。そこにいたのは定年間近と思われる「室長」と自分よりも6年先輩の女子社員・風間さんの二人だけだ。しかも信じられないことに室長の頭はロック野郎かニワトリみたいに赤く逆立っている。

 そして、「最初の仕事」だといわれて任された仕事はオフィスで使うOA機器の機種選定だった。

「必要なのは、プリンター、ファックス、会議用の小型のプロジェクター、……かな。選択基準は第一に来週中に入手可能であること」

 風間さんに指示された。要するに買い物係だ。

 何もないオフィス。そこに什器が必要であることは自分にもわかる。だが、大日本鉄鋼という大企業で働くことで自分が期待していたのは、必要なものはすべて揃った大きなビルの中にある事務所か、広い敷地の巨大な工場だったのだ。

 ネットで調べながら機種選定を始め、自分の選んだ機材が空っぽの事務所に並んでいくことをイメージすると、やがて、いくらか心は持ち直してきた。就職が決まり、神戸から出てきてアパートを借りたとき、リサイクルショップで冷蔵庫やテレビを買ったときには、生まれて初めて自分の城をもったようで楽しかったではないか。

 それに、自分以外の同室者、つまり、旭山室長と先輩の風間さんは妙に楽しそうなのだ。もしかしたらこのふたりは「できている」のかと「お約束」として考えてみて、すぐに否定した。

 風間さんは自分の配属のわずか3日前にこの部屋へ異動してきたばかりだというし、室長が来たのもその10日前だという。10日のうち、ほとんどはゴールデンウィークの休日だから、ようするに自分だけでなく第三企画室にいる3人全員がまったく新しくこの場所にやってきたということだ。創立メンバーってことは成功すれば伝説の人になるってことかもしれない。アップルでいえば、ジョブズとウォズニアック、あるいはヒューレットとパッカードみたいに。

 だが、決定的に違うのは新しい会社ではないこと。わけのわからない企画室でしかない。

 そもそも肝心なことを自分はまだ聞いていない。この第三企画室がいったい何をする部署なのかということを。

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