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episode:10
「ここは地球防衛軍か。」

  • 阿川 大樹

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2009年5月22日(金)

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 まるで本社から隔離されているような横浜の高層マンションの一室で、大日本鉄鋼第三企画室発足以来初めての会議が開かれていた。

「ここでいったい何をやるんですか」

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 新入社員の楠原弘毅(くすはらこうき)は配属以来ずっとそう聞きたかった。

 今日こそそれを聞くことができると思っていたというのに、室長の話はつかみ所がない。

 何をするかは決まっていない。ミッションは大日本鉄鋼を救うこと。そのために鉄とは違う分野で何かをやろうということなのだが、新規事業を始めるのかというと、そんなことはできるはずがないという。

「室長、明日から、我々はどうしたらいいんですか。大所高所の話じゃなくてそれを教えてください」

 強い調子でそう口にしながら、弘毅は自分の語気に驚いて思わず隣の風間麻美を見た。新入社員の自分が、いきなり上司に詰め寄るような物の言い方をしてしまってまずかったのではないかと思ったのだ。

 反応を見ようとしたが、風間さんは何一つ表情を変えず、何か考えながら室長の方を見ているだけだ。

「楠原さん、それから風間さんも、今日から僕のことを室長と呼ぶのはやめにしてくれ」

 また見当違いのことをいわれた。いつまでたっても聞きたいことが出てこない。いったいどうなっているんだ。配属以来ずっと気になっているのだ。

 いよいよ弘毅はいらだち始めていた。

 なんで新入社員の自分を〈さん〉づけで呼ぶのだ。なんで室長と呼ぶななんていうんだ。目の前にいるこの赤毛のリーダーは、もしかしたら自分たちを率いていく能力がないのではないか。尊敬できない上司だなんて最悪だ。

「大日本鉄鋼は世界企業だ。ところがその〈世界〉は未曾有の不景気に見舞われている。未曾有というのは、いまだかつて起こったことがない、ということだ。それがどういうことかわかるか。いま生きている人間で、このような広範囲で大規模な不景気を体験した人間は世界中にひとりもいない、ということだ。いや、生きている人間だけじゃない。過去の歴史の上でも一度も人類が体験したことのない不景気だってことだ。売上が何パーセント減ったとか、失業率がどれだけだとか、株価がいくらを割ったとか、そういう数字も無意味ではないが、そんなことより、世界がまるで変わってしまって、全然ちがう世の中になっちまったってことだ」

 人類が一度も経験したことのない不景気。

 自分は新入社員だ。経済のことを考えるようになったのは就活を始めてからのことだ。社会のことなど何も知らなかった。けれど、就職が決まっても何かうわついた気分にはなれなかったし、工学部であったということでそれほど深く考えることもなしに、製造業を選んだ。

 時代の空気とでもいうのだろうか、自分が感じたものは、唯一、人々に必ず必要なものを作りたいということだけだった。鉄は明らかにそのなかのひとつだった。信念とまではいえないかもしれないが、そこに自分なりの思いはあった。

 いよいよ来年は就職だという年の秋、世の中が騒がしくなった。不景気だ、派遣切りだと連日テレビがいう。景気の波とは日々変わるものでもなさそうなのに、毎日毎日報道するようなことなのか。よくわからなかったが、とにかく大変なことが起きているということだけはわかった。

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