「同世代リーダーに聞く〜「体にいい経営術」」

「俺はなんのためにこんなつらい仕事をしているんだろう」そう思ったら

ゼットン社長 稲本健一氏【2】

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2009年7月3日(金)

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 日々激務をこなしつつ、自らの体をマネジメントし、それを組織全体の健全さに結びつける工夫を、40代を中心とした若手経営者たちに聞く連載「体にいい経営術」。連載の第2クールは、自らトライアスロンに挑み、「いい身体」を創りあげたゼットン社長・稲本健一氏にお聞きする。

●前回はこちら→「リーダーは、逆境でランニングシューズを履く

 39歳でトライアスロンを始めた稲本氏。トレーニングを通じ、経営者としてのバランス感覚やアンテナが磨かれているという。しかし、トライアスロンを始める以前は、弱気になることも少なくなかった。どんな心境の変化があったのか。

――トライアスロンを始める前は、「会社をたたもう」と弱気になることが頻繁にあった、と。どんなことで悩んでいたんですか。

稲本 「人」の問題です。どの仕事でも人の問題はありますが、特に飲食業は人の問題の連続です。店長が突然辞める。育ったと思ったら独立しちゃう。信じていた仲間にお金を持って逃げられたこともありました。特に、僕らのように少人数のベンチャーが出店を重ねると、意思の疎通が難しい。それで信じられないようなトラブルが起きる。

 毎日ものすごくつらかった。「俺はなんのためにこんなつらい仕事をしてるんだろう」と、飯を食えないくらい悩んだこともありました。

週4日は「もうやめたい」

――年齢で言うと30代の後半くらいですね。

 ええ。4〜5年前まではそんな調子だったんです。1週間のうちに3〜4回は「もうやめたい」と思っていた。だけど、1週間に4〜5回、「やっていてよかった」と思うことがあった。

――例えば?

 たわいないことですけどね。アルバイトの子が褒められているのを見たり、新しいメニューを食べてみたらおいしかったり、友達から「いい店だね」と言ってもらったり。毎週、「やってきてよかった」が「やめよう」より1、2回だけ勝っていた。

 だけど、このまま続けていって、いつか「やめたい」という気持ちが勝るときが来たら、と不安でしょうがなかった。いつも精神的にギリギリのところにいました。

――今は「やめたい」と思うことは。

 ありません。

――どんな変化があったんですか。

 もう本当に追い詰められて、追い詰められて、そしてある時、ふっと腹がすわったんです。

「オッケー、もう分かった。この仕事をやるかぎり、人の問題は一生ついてくる。だから、人の問題は、もはや問題だと思わないぞ」と。

 人の問題を避けようとしても、経営を、ましてや飲食業をやっているかぎり避けられるはずがない。人の問題は起きて当たり前なんです。引き受けるしかない。

 人の問題で悩み続ける覚悟ができたら、ズバーンと曇りが晴れました。

――ブッダみたいですね。「生は苦だ」と悟った。

 いやいやいや、そんな偉そうなものじゃないです。事実として、飲食業をやるかぎり、もっと言えば働くかぎり、人の悩みはなくならない。だったら「人のことで悩む覚悟をしよう」と。覚悟すれば、せめて向かい合える。逃げようとしなくなる。逃げられないものから逃げようとして、必要以上に苦しむんですから。

覚悟できる人、できない人の違いは?

――「逃げようとするから余計に苦しい」のは、頭では理解できます。しかし、「もう逃げないぞ、と覚悟したら楽になった」というところまで、本当に行けるものなのでしょうか。

 飲食業者の集まりで受ける相談も、人の問題がほとんどです。こう言っちゃなんですけど、やはり、みんな、逃げ腰です。

 だから僕はいつも言うんです。「飲食業をやるということは、人の問題で悩み続けるということですよ。飲食業をやりながら、人の問題で悩みたくないと言っても無理。だから悩み続ける覚悟をしましょう」と。

――覚悟できるかどうか、問題から逃げない気持ちはどうやったら持てるんでしょうね。「腹がすわる」と言いますから、覚悟ができているということは、頭だけの理解ではなく、頭の理解に「体がついていっている」状態なのかな。

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著者プロフィール

山中 浩之(やまなか・ひろゆき)

日経ビジネス、日経クリック、日経パソコン編集を経て、2006年2月から日経ビジネスオンライン副編集長、編集委員を務めた後、2010年4月から日経ビジネスアソシエ副編集長。ツィッターはこちら

奥原 剛(おくはら・つよし)

1974年、大阪生まれ。PHP研究所を退社後、フリーランスライターに。執筆業の傍ら、東京都台東区で「操体レクリエーション」を開業し、気持ちよさで身心の治癒を促す医術「操体法」の施術・講習を行なっている。



このコラムについて

同世代リーダーに聞く〜「体にいい経営術」

 経営とは、つまるところ体の問題である。

 ぎりぎりの状況下での判断、分刻みでの感情の切り替え、そして土壇場での振る舞い。土気色のリーダーにそれがこなせるだろうか。すべて、健康な体が土台にあってのことだ。だが、リーダーは忙しい。体調に顧慮する余裕などあるのだろうか? 実は逆だ。リーダーが不健康な状態に陥る組織は、内部に重大な問題を抱えている。言い換えれば、健全な判断をリーダーが下せる組織は、優れた経営システムを持っている、と言っていい(もちろんこれは、リーダーが部下に全てを押しつけて安楽に暮らすという馬鹿げた話ではない。そんな組織はモラルハザードを起こし、すぐ崩壊する)。

 日々激務をこなしつつ、自らの体をマネジメントし、それを組織全体の健全さに結びつける工夫を、40代を中心とした若手経営者たちに聞いてみよう。

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