日々激務をこなしつつ、自らの体をマネジメントし、それを組織全体の健全さに結びつける工夫を、40代を中心とした若手経営者たちに聞く連載「体にいい経営術」。連載の第2クールは、自らトライアスロンに挑み、「いい身体」を創りあげたゼットン社長・稲本健一氏にお聞きする。
●前回はこちら→「リーダーは、逆境でランニングシューズを履く」
39歳でトライアスロンを始めた稲本氏。トレーニングを通じ、経営者としてのバランス感覚やアンテナが磨かれているという。しかし、トライアスロンを始める以前は、弱気になることも少なくなかった。どんな心境の変化があったのか。

――トライアスロンを始める前は、「会社をたたもう」と弱気になることが頻繁にあった、と。どんなことで悩んでいたんですか。
稲本 「人」の問題です。どの仕事でも人の問題はありますが、特に飲食業は人の問題の連続です。店長が突然辞める。育ったと思ったら独立しちゃう。信じていた仲間にお金を持って逃げられたこともありました。特に、僕らのように少人数のベンチャーが出店を重ねると、意思の疎通が難しい。それで信じられないようなトラブルが起きる。
毎日ものすごくつらかった。「俺はなんのためにこんなつらい仕事をしてるんだろう」と、飯を食えないくらい悩んだこともありました。
週4日は「もうやめたい」
――年齢で言うと30代の後半くらいですね。
ええ。4〜5年前まではそんな調子だったんです。1週間のうちに3〜4回は「もうやめたい」と思っていた。だけど、1週間に4〜5回、「やっていてよかった」と思うことがあった。
――例えば?
たわいないことですけどね。アルバイトの子が褒められているのを見たり、新しいメニューを食べてみたらおいしかったり、友達から「いい店だね」と言ってもらったり。毎週、「やってきてよかった」が「やめよう」より1、2回だけ勝っていた。
だけど、このまま続けていって、いつか「やめたい」という気持ちが勝るときが来たら、と不安でしょうがなかった。いつも精神的にギリギリのところにいました。
――今は「やめたい」と思うことは。
ありません。
――どんな変化があったんですか。
もう本当に追い詰められて、追い詰められて、そしてある時、ふっと腹がすわったんです。
「オッケー、もう分かった。この仕事をやるかぎり、人の問題は一生ついてくる。だから、人の問題は、もはや問題だと思わないぞ」と。
人の問題を避けようとしても、経営を、ましてや飲食業をやっているかぎり避けられるはずがない。人の問題は起きて当たり前なんです。引き受けるしかない。
人の問題で悩み続ける覚悟ができたら、ズバーンと曇りが晴れました。
――ブッダみたいですね。「生は苦だ」と悟った。
いやいやいや、そんな偉そうなものじゃないです。事実として、飲食業をやるかぎり、もっと言えば働くかぎり、人の悩みはなくならない。だったら「人のことで悩む覚悟をしよう」と。覚悟すれば、せめて向かい合える。逃げようとしなくなる。逃げられないものから逃げようとして、必要以上に苦しむんですから。
覚悟できる人、できない人の違いは?
――「逃げようとするから余計に苦しい」のは、頭では理解できます。しかし、「もう逃げないぞ、と覚悟したら楽になった」というところまで、本当に行けるものなのでしょうか。
飲食業者の集まりで受ける相談も、人の問題がほとんどです。こう言っちゃなんですけど、やはり、みんな、逃げ腰です。
だから僕はいつも言うんです。「飲食業をやるということは、人の問題で悩み続けるということですよ。飲食業をやりながら、人の問題で悩みたくないと言っても無理。だから悩み続ける覚悟をしましょう」と。
――覚悟できるかどうか、問題から逃げない気持ちはどうやったら持てるんでしょうね。「腹がすわる」と言いますから、覚悟ができているということは、頭だけの理解ではなく、頭の理解に「体がついていっている」状態なのかな。
ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。










