「伊東 乾の「常識の源流探訪」」

「サブプライム候補者」に惑わされるな!

――今の政治に「希望」はあるか?

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2009年7月14日(火)

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 いやー、都議選直後、いきなりの解散でびっくりしました。

 ということで今回は、今、日本で、どういう政治家が本質的に求められているかを考えてみます。選挙直前になってしまいましたので、衆院選で候補者を判断する具体的なポイントなども書きたいと思います。と言っても、「常識の源流探訪」ですから、実は極めてオーソドックスな話です。でも原則は大切、ご参考に供すれば幸いです。

 この原稿を編集部とやり取りする時、混乱を避けるために通しナンバーで作業しているのですが、今回で「常識の源流探訪」は108回目になります。これは「除夜の鐘」の数と同じ、煩悩の数ですね。実際、世の中に煩悩の種は尽きません。私の友人知人にも、今回立候補して選挙を戦おうとしている人が幾人かあります。そこで、候補者の皆さんにも改めて原点に帰るという意味でもぜひ読んでいただきたいと思うのですが、ちょっと意外な入り口から入ってみたいと思います。

 それは・・・「詐欺」のテクニック、という話題です。

「詐欺」から経済を考える

 6月に、以前この連載に書いた「円天」詐欺や貨幣論などの原稿(「貨幣の本質は情報だった」「『円天』は詐欺罪なの?」「どこにでもある貨幣偽造」)を書籍にまとめ直す作業をしていて、いくつか気がついたことがありました。2007年の秋頃に、「せっかく日経ビジネスオンラインで連載を始めたのだから、俺なりの経済原論を書いておこう」と、岩井克人さんの議論を踏まえて「情報貨幣論」といった趣きのシリーズを書いたのですが、その中で1年後の2008年に初夏に発覚するであろうサブプライムや、秋に起きるリーマン破綻、そしてそれらが漸次、実体経済に及ぼす影響などの懸念を、結果的に予言するような内容を記していました。

 この連載への私の基本的な考え方は、毎週のページビューにこだわり過ぎず、後でまとめ直して本にする意味がある程度にロングライフな原稿を、毎週小マメに書いていこうというものですが、手堅い内容をまとめておいてよかったと、自分でもちょっと驚きながら思いました。

 そこで、書籍にまとめるうえでは、後から起きた経済の動きを補い、5月の連休明けにMr.マリックこと松尾昭さんと対談して、元原稿とサンドイッチ状に編集してまとめました。本が出来たら、連載でもまた告知させていただきたいと思います。

 その中で「経済対策」という観点から考えた、2009年夏の政治の動きに求められる方向性が、原論から考えて分かってきたような気がしたのです。

「信用創造」が詐欺になる時

 ここで、以前書いた内容を少しだけおさらいさせてください。「円天」なる「電子マネー」商品を考案した株式会社「エル・アンド・ジー」は、「独自」の新たな「ビジネスモデル」であるとして「円天市場」と称するシステムを作り出し、そこに物品を持ち込んだ業者と、品物を購入した(と思い込んだ)一般消費者の双方を、大がかりなトリックでだましました。

 一言で言うなら「ヒト・モノ・カネ」の流れとして

 ◎ モノ:卸元から顧客へ
 ◎ カネ:すべて「エル・アンド・ジー」社へ

 その代わりに

 ◎「円天」なる「電子マネー」:卸元と顧客へ

というフローを作っていたことを、構造を明示して解説したものです。風の噂では、捜査当局はこの記事も参考に、その後首謀者の逮捕に至ったらしく聞いており、もし犯罪再発防止の役に立ったのなら、とてもうれしく思います。

 ここで問題としたのは「エル・アンド・ジー」という会社が野放図に発行する「円天」なるものに、どのような価値の裏づけがあるか? というポイントでした。金融機関は様々な形で「信用創造」をしますが、「エル・アンド・ジー」が行ったのも、言ってみれば一種の「信用創造」と言えます。主犯と目される波和二エル・アンド・ジー会長は「日本全国が、いや世界が円天を使うようになればいい」という発言をテレビなどのインタビューでしていましたが、もし本当に、世界の人々が「円天」に「価値がある」と、その信用を認めれば、この「電子マネー」はグローバル通貨として通用した「かも」しれません。

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著者プロフィール

伊東 乾(いとう・けん)

伊東 乾

1965年生まれ。作曲家=指揮者。ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督。東京大学大学院物理学専攻修士課程、同総合文化研究科博士課程修了。松村禎三、レナード・バーンスタイン、ピエール・ブーレーズらに学ぶ。2000年より東京大学大学院情報学環助教授(作曲=指揮・情報詩学研究室)、2007年より同准教授。東京藝術大学、慶応義塾大学SFC研究所などでも後進の指導に当たる。基礎研究と演奏創作、教育を横断するプロジェクトを推進。『さよなら、サイレント・ネイビー』(集英社)で物理学科時代の同級生でありオウムのサリン散布実行犯となった豊田亨の入信や死刑求刑にいたる過程を克明に描き、第4回開高健ノンフィクション賞受賞。科学技術政策や教育、倫理の問題にも深い関心を寄せる。他の著書に『表象のディスクール』(東大出版会)『知識・構造化ミッション』(日経BP)『反骨のコツ』(朝日新聞出版)『日本にノーベル賞が来る理由』(朝日新聞出版)など。



このコラムについて

伊東 乾の「常識の源流探訪」

私たちが常識として受け入れていること。その常識はなぜ生まれたのか、生まれる必然があったのかを、ほとんどの人は考えたことがないに違いない。しかし、そのルーツには意外な真実が隠れていることが多い。著名な音楽家として、また東京大学の准教授として世界中に知己の多い伊東乾氏が、その人脈によって得られた価値ある情報を基に、常識の源流を解き明かす。

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