「すべては倉庫番が知っている」

更迭された“中国物流の星”

成長市場で激化する国営vs欧米

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2009年7月21日(火)

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 中国には現在5000社余りの民間宅配会社(速達会社)が存在するとされる。しかし、そのほとんどは零細企業で、荷主から言われた通りに動く、便利屋的な使われ方をしている。ネットワークを構築して本格的に事業を展開しているのは外資系のほかは一握りに過ぎない。

 その1つ、民族系宅配会社「宅急送」の創業者で同社の総裁だった陳平氏の個人ブログが昨年末、中国の物流業界関係者の間で話題を呼んだ。陳氏は日本の宅配便にヒントを得て、1994年に車両3台で北京に宅急送を起ち上げ、同社を中国有数の民間物流会社に成長させた“中国の小倉昌男”だ。

 2005年に筆者が北京本社を取材した当時、総裁だった陳氏は、仕立ての良いスーツに派手なネクタイ、金無垢のロレックスという出で立ちで、「近い将来、我が社は自社所有の貨物航空機を飛ばして国際インテグレーターと真っ向から渡り合うようになる。2年後にまた来てくれ」と力強く語っていた。

 オフィスの壁には「フェデックスまで、あと何マイル?」というスローガンが大きく掲げられ、取材後にはお土産にと、宅急送のシンボルマークの猿をペイントした貨物飛行機の模型までプレゼントしてくれた。自社航空機にはまだ手が届かないので、模型だけ先に作ったらしい。

勢い失う物流ベンチャー

 その陳氏が昨年11月、宅急送総裁の座を更迭された。一連の解任劇について、陳氏は自らのブログで「誰も悪くない。ただつらいだけだ。経営改革を断行したのに、私は自分の作った会社を離れざるを得なかった。それについては多くを語りたくない」との感想をつづっている。

 その後、今年1月に陳氏は個人資産をはたいて、新たに星晨急便を設立。裸一貫に戻って、再び宅配便事業に乗り出している。今度こそ、本格的な宅配便を中国に根づかせようと考えているようだ。

 2007年に陳氏は宅急送総裁として同社の大規模な事業構造改革を断行している。それまでの宅急送は宅配会社の看板を掲げながらも、実際には売り上げの約9割が一般的な貸切輸送と路線便、倉庫事業などで占められていた。中国各地に展開した拠点にはフランチャイズ契約が多く、統合管理が十分ではなかった。

 これを日本の宅配便と同じ30キログラム以下の荷物だけを対象とした本格的な小口配送ネットワークに再編しようというのが陳氏の考えだった。現地の報道によると、そのために宅急送は3000カ所近くの拠点を整備し、6000人以上の集配作業員を増強、300台の車両と200ルートの航空貨物輸送枠を確保したとされる。

 この先行投資が裏目に出た。インフラの増強と事業規模拡大のバランスが取れずに財務状況が悪化。さらには米フェデックスが中国の宅配便市場に本格進出し、極端な価格攻勢に出たことで料金相場が下落。宅急送は大規模なリストラを余儀なくされる事態に追い込まれた。

 その責任を取らされる形で、陳氏は自分の会社を追われた。後釜には、陳氏の実兄の陳顕宝氏が総裁として就任した。ほかにも陳氏の兄弟には、有力生命保険会社の泰康人寿保険を創業した陳東升氏がいて、宅急送の経営にも深く関与しているとされる。陳平氏の解任は起業家一家の“お家騒動”という一面もあったようだ。

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著者プロフィール

大矢 昌浩(おおや・まさひろ)氏

1964年、東京生まれ。日本大学芸術学部大学院修了。日経BP社発行「日経ロジスティクス」記者、流通専門誌編集長を経て99年、ライノス・パブリケーションズを設立。2001年4月に「月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)」創刊。同誌の編集発行人として現在に至る。2004年4月〜2007年3月、多摩大学大学院客員教授を兼務。



このコラムについて

すべては倉庫番が知っている

原材料の調達から工場での加工、店舗までの配送と、企業や産業のあらゆる活動を“裏方”として支える物流。ここからは、表層からはうかがい知れない経営や経済の動きが浮かび上がってくる。そこから見えてくる課題は、単なる物流改善に伴うコスト削減にとどまらず、企業に構造改革を促すテーマである。10年以上も物流業界を取材してきた筆者が、“倉庫番”だから知り得る日本企業の実像をリポートする。

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