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「社員は“家族”です」の嘘っぱち

社長殿、一貫性をもってリストラをせよ!

2009年9月3日(木)

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 「社員は“家族”ですから…」
 数年前、ある会合でそのトップは自慢げに語っていた。

 自分がどれだけ社員のことを考え、どれだけ大切にしているかを彼は“家族”という、実に便利な言葉で表現したのだ。

 ところが、その会社でリストラがあった。大規模というほどのものではなかったし、表向きは希望退職を募ったものだった。だが、実際は生産ラインの従業員にターゲットを絞ったクビ切りだった。

 家族に、リストラはあるか?

 なくはない。
 たとえば、
 「うちの家計が厳しくなったから、お兄ちゃんは早めに独立してもらえるかな」
 そんな相談を子供にする家族だって、あるかもしれない。

 あるいは、
 「弟や妹を高校までは行かせてやりたいから、お兄ちゃんは卒業したら就職してくれ」
 そんな具合に子供に頼む家族だって、あるかもしれない。

 だが、大切な子供に理不尽に「出ていってくれ」と促すことはない。

 たいていの父親(あるいは母親)は、
 「なぜ、家を出てほしいのか?」
 「なぜ、兄弟のなかでも、お前なのか?」
を説明する。

 子供が本当に大切であれば、子供が「自分は捨てられたんだ」などと思わないように、親はできる限りの努力をする。そして、そうせざるを得ない自分の無力さを情けなく思い、子供に謝る、そんな親だっているだろう。

 子供も親の思いを感じることができれば、「わかった。僕は大丈夫だから、母さんや弟たちをよろしくね」と納得する。「自分のことを大切に思ってくれている」という確信がもてれば、どんな厳しい選択だって受け入れようと、子供もまた努力する。それが“家族”だ(最近は、家族も微妙に変わってきているようだが、一般的と理解してほしい)。

リストラに問題があるわけではない

 ところが、「社員は“家族”ですから…」と自負していたトップは、理不尽なクビ切りをした。

 彼は何の説明責任も果たすことなく、生産ラインの仕事を大幅に縮小し、希望退職者を募ったそうだ。会社に行って、仕事もなければ居場所もない社員は、辞めるしかない。彼らは、半ば強制的に“希望退職”をさせられたのだ。

 “家族”という幻想を抱かせるだけ抱かせて、自分の勝手な都合で放り出した彼の罪は、大きいだろう。どんなに「いや、僕が社員を大切に思う気持ちは変わりはないし、僕だって断腸の思いで決断した」と、そのトップが言い訳をしようとも(実際にそんなことを言っていたと私が聞いたわけではないが)、トップにあるべき言動・行為ではない。そこに、「大切だ」と社員を思う気持ちは、微塵も存在しないのだから。

 理不尽なリストラは、自分の都合で子供を虐待する親と同じではないか。自分の調子のいい時だけ、子供に愛情を注ぎ、都合が悪くなると、育児を放棄する。そんな親と同じことを、件のトップはしたのではないか。

 だが、そのトップは今なお、社長のイスに座っている。子供を虐待する親は罰せられても、社員を無碍(むげ)に扱ったトップが罰せられることはない。なんとも腹立たしいが、こういった無情な行いが、現代社会に平然と存在していることに空しささえ覚える。

 といっても、勘違いしないでほしい。私は何もリストラすることを問題にしているのではない。

 問題は一貫性のない態度だ。「社員は“家族”」と言いながら、その態度を変えたことに、憤りを感じているのだ。

 リストラが社員のメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことは、どんなトップでも知っている。だが、トップの一貫性のなさが、リストラ以上に「社員の生きる力」を弱めることを、果たしてどれだけのトップが理解しているだろうか。 

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「「社員は“家族”です」の嘘っぱち」の著者

河合 薫

河合 薫(かわい・かおる)

健康社会学者(Ph.D.)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数は600人に迫る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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