「急募!考え抜く社員」

日本をダメにした「正解主義」の呪縛を解け

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2009年9月8日(火)

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 景気悪化による消費不振、少子高齢化や人口減少に伴う国内市場の飽和、新興国の追い上げによる価格競争の激化、環境対応などで迫られる産業構造の転換――。現在、日本企業には様々な難題が突きつけられている。

 いずれの解決策も、過去の延長線上の発想やノウハウ本などにある借り物の知識で見つけることはできない。だが、株主に追い立てられる経営者や管理職は早急な解を求め、付加価値創造を担うべき従業員はノウハウ本やインターネットで安易な答え探しに走り回る。

 誰もが答えを求めるこの時代には、どのような人材が必要なのか――。それを探るため、日経ビジネスでは9月14日号で「急募!考え抜く社員 もう借り物の知識には頼らない」というリポートを組む。思考する社員を育てるために、それぞれの企業が何をしているのか、それをまとめた特集だ。

 この企画に先立って、企業に求められる人材について、経営者や識者の意見を掲載していく。1回目は杉並区和田中学校の元校長、藤原和博氏。日本にはびこる正解主義が子どもたちの考える力を失わせている、と説く。

(聞き手は日経ビジネスオンライン記者 篠原 匡)


 ―― 今回、日経ビジネスでは「考え抜く社員」というテーマで取材をしています。藤原さんはリクルート退社後、杉並区立和田中の校長として教育に関わってきました。これからの人材について、藤原さんのご意見をお聞かせください。

 藤原 最近、すぐに答えを求める人が増えているけど、その背景には正解主義があると思う。よく学校では「わかった人だけ手を挙げなさい」と言うでしょう。わかった人のうち、さらに自信があるやつだけが発言を許されるわけでしょう。その瞬間に、ほかの子は思考が止まっちゃうんですよ。

人生には正解はない

藤原 和博(ふじはら・かずひろ)氏
1955年東京都生まれ。1978年にリクルート入社。ロンドン大学ビジネス・スクール客員研究員、リクルートフェローなどを経て、2003年に杉並区立和田中学校校長に就任。東京都初の民間人校長を務めた経験から教育問題に積極的に提言している(写真:都築雅人、以下同)
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 このように、日本の教育界は常に正解を求める正解主義でやってきました。この中で10年、20年と育てられた子供がどうなるか、というと、常に物事には正解がある、と思ってしまうよね。今の若い人はほとんどがそのように思っている。30代、40代の人だって、人生の中に正解があるに違いないと思っているよ。

 だから、変な自分探しをするんですよ。自分にとって、絶対、正解の会社がある、自分にぴったりな仕事がある、とかね。でも、そんなものはあるわけがない。

 自分も変化するし、相手も変化する。人生はその中でのベクトルあわせじゃないですか。仕事にしても、普段のベクトルあわせが本質なのに、正解があると思っちゃうわけよ。これは結婚の問題もそうだと思うよ。いつか正解が現れると思っているうちに、潮時を逃してしまう、というみたいにね。保留しちゃうんだよ。

 ―― 確かに、人生に正解を探していると、何も決められませんね。

 藤原 この正解主義が日本中にはびこっている。オレはこれが最も叩かなければならない呪縛だと思っているわけ。だって、何でも正解があるという風に思う若者を育てているけど、実際はそうではないんだからね。ついでに言うと、ブランド志向も正解主義の結果だと思うよ。ブランド志向とは、要するに、皆が認める正解であれば大丈夫ということでしょう。人生の選択もそういう形になっているんだよ。

 今の時代、「何とかの教科書」というように書いてある本が受けるわけじゃない。少し前の世代も「POPEYE」や「BRUTUS」をマニュアル本として読んだけど、今の若い人たちはもう少し重症のような気がする。昔のPOPEYE世代はアメリカにあこがれながらも、アメリカオンリーはちょっとどうかな、という照れがあったからね。

「それぞれ一人ひとり」の成熟社会

 ―― 正解主義を打破するにはどうすればいいのでしょうか。

 藤原 この正解主義に対抗する概念があるんだけど、それを「修正主義」と名付けているんだけど、その前に、このようなマニュアル重視の世の中になったのか、少し長くなるけどその前提の話をしましょう。

 よく言われていることだけど、今のこの時代は20世紀の成長社会から21世紀の成熟社会への移行期にある。オレは15年くらい前から始まったと見ているんだけど、今はまさに過渡期で、あと15年もすると、周りにいるすべての人々が「ああ成熟社会ね」と実感する時代になる。

 日本は様々なラッキーがあって、1980年代に1億総中流といわれる時代になった。このように、1億人がすべて中流になった社会なんて人類史上ないわけですよ。アテネでもローマでも、格差がもっとあったわけなんだよ。

 じゃあ、その後どうなるかというと、当然のことながら分解が始まる。上下、左右、前後みたいにね。高齢者が増えることが成熟社会ではなく、すべてのことが多様化し、複雑化し、変化が激しくなる。それが成熟社会の本質なんですね。あとは、上下、左右、前後に分解していくのが当たり前なんですね。

 この成熟社会における最も大きな変化は「みんな一緒」という社会から「それぞれ一人ひとり」という社会への移行と言える。

 ―― 集団から個人への転換ですか。

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著者プロフィール

篠原 匡(しのはら・ただし)

昭和50年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、日経BP社に入社。以後、主に「日経ビジネス」の記者として活動している。趣味は競艇と出張、庭いじり。著書に『腹八分の資本主義』(新潮社)、『おまんのモノサシ持ちや』(日本経済新聞出版社)がある。



このコラムについて

急募!考え抜く社員

100年に一度と言われる大転換期。この変化を生き抜くためには、従来の延長線上の発想や、借り物の知識では不可能だ。真理を考え抜く社員が今求められている。このコラムの関連記事は日経ビジネス2009年9月14日号「リポート 考える人材」に掲載します。こちらも併せてご覧下さい。(イラスト:今竹 智)

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