米ハーバード大学経営大学院で史上最年少の教授に就任し、若手経営学者のホープとして頭角を現したパンカジ・ゲマワット氏。現在はスペインの経営大学院、IESEの教授を務める同氏は、10年以上にわたって企業のグローバル戦略を研究し、米ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニスト、トーマス・フリードマン氏らが主張してきた、米国流をグローバルスタンダードとするグローバリゼーションに異議を唱え続けてきた。今や多くの米国企業が「世界はフラットではない」と気づき、海外戦略を転換し始めたという。
(聞き手は日経ビジネス、中野目 純一)
世界全体のGDP(国内総生産)に占める米国のGDPの割合と経済的な影響力は今後、数十年にわたって減少していく可能性がある──。
多くの人がこう予測しています。米国企業にとって、世界のほかの地域の成長にいかに便乗して業績を伸ばしていくか。それが課題になるでしょう。
米国企業の多くはグローバル化していない

1979年米ハーバード大学で応用数学の学士号を取得。82年同大で商業経済博士号を取得。米コンサルティング大手のマッキンゼーを経て、83年から米ハーバード大学経営大学院の教員を務める。91年同大学院で史上最年少の教授に就任。2006年からスペインの経営大学院であるIESE(イエセ)の教授。著書に『コークの味は国ごとに違うべきか』(文芸春秋)などがある。
とはいえ米国企業にとって、これは簡単なことではありません。多くの米国企業が既にグローバル化していると一般的に見られていますが、この見方は実は正しくない。海外で事業を展開している米国の大企業でさえ、大半は北米の市場に依存しているのです。
もっとも、この点はほかの国の企業も同じです。彼らもまた、売上高の大半を母国の市場で稼いでいます。しかし、米国企業の母国市場への依存は、ほかの国の企業のそれとは、構造的な違いがあると思います。その違いは、米国市場の規模に起因するものです。
米国市場は、世界最大の市場です。小さな国で創業した企業であれば、米国企業よりもはるかに早く、母国以外の市場に進出する必要が生じます。
さらに、米国の市場は巨大であるにもかかわらず、州や地域ごとの違いが少なく均一です。そのため、米国企業は海外進出に当たって、米国市場とほかの国の市場との違いを小さく見る。そして、既に米国市場で成功したアプローチをそのまま適用しようとする傾向が強い。
ウォルマートが海外進出でつまずいた理由
例えば、小売り世界最大手のウォルマート・ストアーズ。米国では巧みな経営で突出した成功を収めてきた同社も、海外進出では米国で味わったことのない困難に直面してきました。
原因の1つは、同社が海外に出始めた頃に、米国でうまくいった施策と慣行を、米国とは大きく異なる海外の市場においてもそのまま実行しようとしたことにあります。
同社の前CEO(最高経営責任者)であるリー・スコット氏は、まだCEOの地位にあった数年前にこう言いました。「当社は(本社のある)米アーカンソー州からアラバマ州へ進出するのに成功した。それとアルゼンチンへの進出に違いがあるだろうか」と。
こうした考えを持っていたために、同社が進出してすぐに成功を収めたのは、メキシコ、カナダ、英国といった米国と共通点の多い国だけでした。
特に米国と文化的、政治的、地理的、経済的にかけ離れた国では、「ワンサイズがすべてにフィットする」というアプローチは明らかに通じなかった。その教訓から、ウォルマートも今では多くの国で、現地の実情に応じたアプローチを取るようになってきています。
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