• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

episode:28
「まさか、政権が変わること自体にこんなリスクがあるとはね」

  • 阿川 大樹

バックナンバー

2009年10月6日(火)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

前回までのあらすじ

12年ぶりに大日本鉄鋼に戻った旭山隆児(あさひやまりゅうじ)の新部署、第三企画室の出社禁止期間が明けた。風間麻美(かざまあさみ)と楠原弘毅(くすはらこうき)の話を元にビジネスモデルの検証を始めた3人。会議の場所は、三浦半島は諸磯湾に舫われた一台のヨット。麻美は茅ヶ崎ガレージ村のビジネスプランを具体化させつつあった。

 旭山隆児は、それでも少し迷っていた。

画像のクリックで拡大表示

 風間麻美は、バイクツーリングで知り合ったグループが共同のメンテナンス施設として自力で作った、茅ヶ崎のガレージ村を訪ねた。そこで、バイク修理仲間に部品作りで協力していた、津久井という職人の勤務先の会社が、資金繰りに行き詰まり、廃業に追い込まれようとしているのを知った。そして、その会社を軸に、新しいビジネスモデルを構築できるかもしれないと提案してきた。

 幸福を直接売る仕事をしたい。

 鋼材という素材を作って売っている大日本鉄鋼にとって運命的に欠けているものは、最終消費者の幸福に直接関与できないことだと、第三企画室は自分たちのフォーカスすべき対象を認識しつつあった。

 しかし、だからといって、何をしたらいいのか。

 旭山は、風のない諸磯湾の海面を滑るヨットの舵を握りながら考え込んでいた。

 水面近くにうっすらと朝靄が立ち籠め、その中をエンジンをリズミカルに響かせた《テスタ・ロッサ》が、ほとんど曳き波を立てず、滑るように湾口を出て行く。フェラーリとは似ても似つかぬ鈍足クルージングヨットだが、故障でもしないかぎりだれも見ないであろうに、機関室を開ければ、その2気筒20馬力のヤンマー製マリンディーゼルエンジンのシリンダーヘッドは赤く塗られている。

 朝の完璧な静けさの中、傍らの部下たちも、黙っていた。

 時折、早朝の海の空気を満喫するように深呼吸をしている。

*  *  *

 大日本鉄鋼というあまりにも巨大な会社を、たったひとつの思いつきで、支えることはできない。何より、従業員たちを新しい分野に簡単に適応させることこそ難しい。

 ほとんどの人間は、会社にいることで自動的に割り当てられる職務をこなすことで評価され、長い間、それ以外のことを自ら考えつくことを必要とされていなかった。創意工夫をするのは、あくまでも「カイゼン」の範囲に過ぎない。

 たとえば工場のドアを誰かが急に開けて、たまたまその時に廊下を通りかかった事務員とぶつかるという事故が起きる。そんな時、さっそく小集団で対策を考え、誰かの提案で、ドアが開く半円形のエリアを床に引いた白い線でわかりやすくする。それで歩行者の注意を促し、ドアには反対側が見える小窓を開けることで、近づいてくる人間の気配がわかるようにする。そうやって、工場内で起きた事故をきっかけに、次の事故を未然に防ごうとする。

 日常の仕事の中で、ヒヤリとしたりハッとしたことを職場で話し合い、事故の潜在的な原因を見つけ出し、労働災害が起きないようにする。各職場は「無事故○○日」と連続無事故記録を競い合い、工場の門を入ったロータリーには、電光掲示板が「ただいま無事故、○○○日」と表示して、毎朝の出勤時にすべての社員に安全意識を啓蒙するわけだ。

 かつて、それぞれのチェックポイントで現場に銀色の断熱防火服を着た人間が立って行っていた1000度の熱間圧延装置の監視を、カメラと集中監視室のモニターで行うようにして、労働安全と人員削減を両立させるように改善する。

 だが、創意工夫によって、「今ある環境」や「今ある作業」を、どんなに安全にどんなに効率的にしたところで、大日本鉄鋼は不況の荒波に為す術もない。

 たしかにその規模故に、茅ヶ崎南製作所のように、わずかな資金繰りのために、短期間に廃業の危機に直面したりはしない。

 しかし、リーマンショックから一年が過ぎようとしている今、まだ、溶鉱炉を冷やしてしまうのを避けるためだけに少量の粗鋼を作り出しつつも、後工程に回すことができず工場敷地内に野積みになった製品の行き先は決まらない。

コメント2

「第三企画室、出動す ~ボスはテスタ・ロッサ」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

日本の社会に足りないのは起業家精神です。

デイビッド・ルーベンシュタイン 米カーライル・グループ共同創業者兼共同最高経営責任者