先週金曜日の10月9日、バラク・オバマ米大統領のノーベル平和賞の一報が入ると、メディア各社から矢継ぎ早にコメントの依頼が来ました。昨年、本コラムでノーベル賞の連載を書き、これが『日本にノーベル賞が来る理由』(朝日新書)になったために起きた現象と思いますが、正直少なからず驚きました。
記者さんたちから「“予言”が当たっている」などと言われ(そんなつもりはないので、かえってこっちがビックリ)、まずは背景にある関係各勢力の思惑などお話しするのですが、字数制限などのため、なかなか十分なことが最終稿に残りません。
そこで関連の話題について、来週以降も本連載で継続的に取り上げたいと思います。前回の続きでもある今回の話題も「オバ マ・ノーベル平和賞」と非常に深い部分でつながるものになっています。
さて、前回は「ヴェニスの商人の・・・」と銘打ったものの、ウィリアム・シェイクスピアの物語には触れることなく、「ヴェニス」という都市を拠点として活動する商人や都市国家そのものの歴史で紙幅が尽きました。
そこで今回こそはシェイクスピア描くところの「強欲なユダヤ人の金貸し・シャイロック」を念頭に「ヴェニスの商人」から、ちょっとした「金融論」を考えてみたいと思います。「ヴェネツィアシリーズ」今回の眼目は「金貸しシャイロックの構造」にあります。
ちなみにシェイクスピアの物語が展開するのは、作家の生きた同時代、16世紀末の「ヴェニス」という設定です。前回ヴェネツィアの強大な海軍力に関するコメントを頂きましたが、実はそれより100年以上前の15世紀半ば時点で、地中海の制海権をオスマン・トルコに奪われています。

「金貸しシャイロック」が活躍した頃のヴェニスは、既に「唯一超大国」ではなかったわけですが、貿易都市としての頂点はむしろこの時代に築かれているようで、制海権を手放してからの繁栄は400年にわたって続きます(現時点までの合衆国史の2倍近い長さです)し、ティツィアーノ・ヴェチェッリオに代表される絵画などヴェネツィア文化の精華も、軍事国家としては斜陽期に当たる16世紀から花開いているわけです。
ちなみに日本にも「軍事立国期」の歴史があるわけですが、好悪を超えて現在、21世紀の日本は「軍事立国期以降」の時代を生きており、アニメやゲームも含めて「文化」の輸出超過という現実を見ることができそうです。
「ヴェニスの商人」はリスクを冒す
さて、以下の議論に必要な範囲で、ごくごく簡単に「ヴェニスの商人」の物語を振り返っておきましょう。
ヴェネツィア市民の若者、情熱家のバサーニオは遊び人で、お金がちっとも溜まらないタイプ。だが、巨万の富を相続している美貌のポーシャと結婚するために、その準備資金が欲しい。そこで貿易商を営む友人のアントーニオから借金して、求婚劇を成功させようとしますが、アントーニオの全財産は航海中の船の中にあり、融資しようにも先立つものがありません。
そこでアントーニオは、強欲で有名な(とされる)ユダヤ人の高利貸し、シャイロックに金を借りに行きます。借金の条件は、期日までに借りた金を返さなければ、胸の肉1ポンドを与えなければならない、というイヤな代物。アントーニオはその条件を飲んでしまいます。ところがアントーニオの船は難破してしまい、彼は全財産を失ってしまったので一大事。この奇禍に、今までさんざん差別され、いじめられてきたユダヤ人のシャイロックは「これで復讐できる!」と大喜び・・・。
ここまでの部分、バサーニオの借金の理由を「金持ちの娘への求婚」とだけ考えると、どうも話が薄っぺらくなりますね。しかし仮にここで「成功率の高そうな事業へのチャレンジ」「起業」などと考えることにしてみたら、ちょっと雰囲気が変わって見えそうです。

無一文だが才能のある起業家志望のB君は、資金力のある友人A君に融資を頼む。たまたま先立つものの無かったA君、友人のために不用意にもヤミ金融の厄介になることに。ところが・・・。
なんて書き換えてみると、シェイクスピアの作品が元来持つ「いかがわしさ」が、21世紀にも生々しく伝わってくるような気がするのですが・・・。
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