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「俺だって疲れているんだ!」―トップの“真の強さ”とは?

経営者の心の状態は従業員に伝染する

2009年10月29日(木)

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 「2006年に社長が西松さんになってから、ずいぶん働きやすくなったんだ。でも、社内でも西松さんの評価は分かれていて、『あれって、パフォーマンスだ』と言う人もいる。社長って、大変だよね」
 日本航空(JAL)に勤める知人から聞いた話である。

 JALは今、前原誠司国土交通相直轄の専門家チーム「JAL再生タスクフォース」の助言を受け、抜本的な経営再建に向けた取り組みを進めている。金融機関の支援を得るために、西松遥社長の退任など経営陣刷新が盛り込まれるという報道もあった。

 西松社長と言えば、昨年に米CNNがその倹約姿勢を伝えたため米国で話題に上った。海外で評価されてから日本でも評価されるケースは多いが、このニュースでもそうだった。

 自らの給料を大幅カットし、通勤も一般の交通機関を使う。社長室は撤廃し、“大部屋”で一般社員からも顔が見える場所で仕事をし、社員食堂で社員に交じって昼食をとる。そんな姿をワイドショーで目にした人も多かったことだろう。

 私自身、全日本空輸(ANA)の同期から、「JALは本当に大変らしい」という話を1年前くらいに聞いていたが、トップがそこまで徹底して再建に取り組んでいたとは知らなかった。西松社長の取り組みには、素直に感動したものだった。

 しかし、冒頭の知人が言うように、社内で「あれって、パフォーマンスだ」と揶揄する社員がいるという。世間で西松社長の評価が高くなるほど、「同僚たちが再建計画の中でリストラされたことへの償い」「融資している銀行筋へのアピール」「発言権の強い乗員組合への当てつけ」などと、冷ややかな意見を言う人が増えたそうだ。

 「あんなことをしようとしまいが関係ない。どんなプロセスをとろうとも、会社をつぶさないことが役目なんだから」と辛辣なことを言う人もいるという。

 どこの世界にも、うがった見方をする人はいるものだ。誠意ある行動をとればとるほど、人気が出れば出るほど、あれこれ言う。ただの嫉妬か、ただの妬みか。相手が自分の会社のトップであっても関係ない。

 でも、大会社の社長様があんな“普通” の生活をするのは、“普通”はできない。日本を代表する航空会社のJALのトップだ。生半可な気持ちでできることではない、と思うのだ。しかも、本をただせば、歴代の、過去の経営者たちに経営責任があるわけだ。

 それで退任に追い込まれようものなら、なんとも気の毒なこと。たとえそれが経営責任の筋論ではあるとしても、「経営者も大変だ。大丈夫なのかな」などと、面識もない西松氏のメンタルを職業柄か勝手に心配してしまうのである。

「経営者という憂鬱」が認知されていない不幸

 さて、今回はなにもJALの再建問題について語るわけではない。かつて航空業界にいたからといって、内部中枢部に太いパイプがあるわけでもなければ、経済の専門家でもない。そうではなく、「経営者という憂鬱」について考えてみようと思う。

 とはいえ、社員の給料をカットしながら、自分だけは運転手付きの黒塗りハイヤーで登場し、大きな社長室にデンと座っているようなトップは除外する。たとえ彼らが、「ストレスで死にそうなんだよ」と言おうが、もがこうが関係ない。そうではなく、誰よりもがんばってはいるが、どうにも報われない。本当は『どうすりゃいい?』と嘆きたいのに、嘆けない。人知れずそんな“ストレスの雨”に濡れている経営者について考えたい。

 一般に労働者のメンタルヘルスは「ウツ」と結びつけられ、経営者は即座に「自殺」に結びつけられることが多い。

 経営者の自殺は大きな社会問題のひとつで、日本で自殺者が多いとされている秋田県では経営者の自殺を防ぐためのNPO法人も設立されている。

 あの亀井静香内閣府特命担当大臣も、「私の地元で、この4、5年で3人、中小・零細企業の経営者が自殺してしまいました……私は、社長の葬儀に行って、遺族の方と一緒に肩を抱き合って、お互いに泣いたのだけれども、それから3日後に、副社長がまた自殺してしまった」と記者会見で語り、返済猶予制度(モラトリアム)についての法案の必要性を訴えた。自殺する経営者の多くは零細企業や家族経営であり、資金繰りが行き詰まったことが第1の原因とされている。

 当然ながら、そういった経営者の自殺を防ぐことは重要であり、単に心の問題としてだけなく、その資金をどうするかというセーフティーネットも含め、取り組みを検討する必要がある。

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「「俺だって疲れているんだ!」―トップの“真の強さ”とは?」の著者

河合 薫

河合 薫(かわい・かおる)

健康社会学者(Ph.D.)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数は600人に迫る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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