不況で売り上げが苦戦する時代に、世の中はディスカウント合戦になっている。ディスカウントして一時的に売り上げが増えることもあったが、次第に売り上げが伸びなくなっている。
以前にも説明したように、ディスカウントは需要の先食いや、他商品からの買い換えのスイッチ買いであることが多い。ディスカウントするということは、単価が下がっているということである。
単価が下がった分を補うだけの数量をさばかないと売り上げは増えないし、長期的に売上数量を増やしていかないと売り上げは結局は落ちていく。ディスカウントをして他店舗の売り上げを奪っても、競争相手も対抗してディスカウントしてくるから奪い合いになり、泥沼のディスカウント合戦になるだけで、結果として売り上げは縮小していく。
分かっていてもやめられない?
ディスカウントして売り上げが減ると、大変なことになる。ディスカウントすると粗利率が下がることが多いから、粗利額は減少する。単価が下がっていて売上数量は増えているから、数量に比例して投入する人件費はこれまでよりかかる。粗利額が減少し、人件費は増加しているのだから、営業利益は大幅に減少する。
「それは分かっている、でもどうしようもないんだ」という声が聞こえてきそうだ。不況で価格志向が強くなっているから、ディスカウントしないと売り上げは落ちていく。「競争相手もディスカウントしているから、こっちも対抗上ディスカウントしないと生き残れないんだ」「耐えるしかない、コストを削減して何とか乗り切るんだ」と考え、決死の覚悟でディスカウントしているのだろう。
本当にどうしようもないのだろうか。私は価格以外の魅力で売り上げにつなげる方法はあると考えている。理想論だとか机上の空論だとか言われると困るので、実際に経営者として取り組んできたことを説明してみたい。
成城石井はディスカウントしていないが、売り上げは増えてきている。高額品が売れない時代である。高級志向の食品スーパーマーケットの売り上げは、百貨店なみに大幅に落ち込んでいるところが多い。その中でディスカウントしないで、どうやって売り上げを確保しているのか――。
ファン作りは、気持ちのいい挨拶から
まず一番大切にしているのはお店のファンを増やすこと、つまり固定客を増やすことである。
小売業の売り上げの大半は、固定客からである。固定客の売り上げを増やさないと、長期的な売り上げの増加にはならない。チラシで価格を下げると、価格の魅力でたまたま来店するお客様が増加する。が、そのお客様はほかの店舗にチラシで安い商品があると、その店舗に行ってしまい、短期的な売り上げ増にしかならない。
ではどうやって固定客を増やすかである。固定客というと、小売業の会員カードを発行すれば、固定客は増えることを思いつく。九州にあるドラッグストアの社長をしていた時、150万枚という大量の会員カードを発行していたので、会員カードの拡大策を実施した。
確かにカードの会員数は増加したが、固定客が増加したという感じではなかった。お客様は何枚もカードを持っているので、会員カードを持っていただいても、固定客とはならないのが実感であった。
お客様はいつも行く店舗を決めていることが多い。そのいつも行く店舗を変更する大きな理由が、「店員の感じが悪かった」である。店舗に行かない理由として、「価格が高い」「品質が悪い」に勝るとも劣らない多さである。お店のファンを増やすために、感じのいい挨拶をすること、感じのいい接客をすることは非常に重要であると考えている。
成城石井では感じのいい挨拶は最重要課題となっている。「売り上げは気にしなくてもいいから、挨拶をしっかりするように」というのが経営方針である。小売業に関わり30年経ったが、ファンを増やし、固定客を増やすには、基本を徹底するしかないというのが私の信念である。
基本の徹底で重要なのは、挨拶とクリンリネスと品切れ削減の3つである。だから成城石井では、この3つを最重要課題としているのである。
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成城石井相談役。1956年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、79年にイトーヨーカ堂入社。経営トップ直結の「業務改革」の主要メンバーとして構造改革に取り組む。その後、プライスウォーターハウスコンサルティングのシニアコンサルタント、財団法人流通経済研究所の研究員を経て、90年7月、流通コンサルティングを手がけるリテイルサイエンスを設立。ファーストリテイリング(ユニクロ)や良品計画の経営改革を担当する。2003年9月にドラッグイレブン代表に就任、2007年1月から成城石井社長を務め、2010年9月から現職。

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