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episode:32
「どんなときにも〈もう一つの可能性〉を忘れない」

  • 阿川 大樹

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2009年11月10日(火)

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前回までのあらすじ

12年ぶりに大日本鉄鋼に戻った旭山隆児(あさひやまりゅうじ)の新部署、第三企画室の陣容は、風間麻美(かざまあさみ)と楠原弘毅(くすはらこうき)と旭山の総勢3名だ。根城はみなとみらいのマンションの一室。ビジネスモデルの検証を始めたものの、本社管理部の覚えはよくない。悪化する本社の財政事情を聞いた旭山は、状況を逆手にとり部署の独立を決断する。

「旭山さん、会社の名前どうするんですか」

 昨日から風間麻美に詰め寄られている。

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「早く茅ヶ崎南製作所との投資契約が完了しないと、信用金庫のつなぎ融資の返済期限が来てしまいます。製作所に返済する現金はありません。

 もともと〈貸し剥がし〉にかかってきたところを、大日本鉄鋼の出資があるからという前提でなんとか実行してもらった融資です。信金は最初から腰が引けています。

 期限までに投資の契約ができあがらないと、融資期間の延長は無理です。もともと社長はものすごく実直な人です。たった300万円の不義理を嫌って会社の土地や建物を手放して清算してしまおうとした人です。

 売らずに会社を残しましょう、と話をしていますけれど、放っておいたらよからぬ所から借りてでも返してしまいそうです」

*  *  *

 まだ会ったことはないが、風間から聞いている話で、茅ヶ崎南製作所の平野社長の人柄はなんとなくわかる。親譲りの職人がそのまま仕事場を会社にして、細々と実直に仕事をしてきたの人間なのだ。

 事務員は雇わず、パートタイムで奥さんが経理と受発注管理をしている。

 経営が苦しいのに、従業員の給料を遅配したことは一度もなく、足らなくなるたびに、奥さんに支払うべき賃金と自分の給料を返上して来た。

 帳簿を見た風間が驚いたそうだ。未払いの賃金の多くは未払い金として会社の債務に計上せず、そのまま給与を減額してしまっているのだという。

 個人事業主にはよくあることだ。

 自分は大企業にいた。だから零細企業でそれが当たり前のことだなどと想像もつかなかった。

 大学の同級生で親の後を継いで小さな会社を経営していた友人がいたが、会うたびに聞かされた。零細企業では、赤字決算をすると銀行が貸してくれないどころか、一気に貸し剥がしにくる。だから、粉飾してでも黒字に見せておかなければならないのだと。

「あとで儲かったら、そのときに自分にボーナスを出せばいいんだ。だから帳簿だけはきれいにしておく」

 クラスメートはそういっていた。

「でもな、旭山。結局、ボーナスなんか出せたことなど一度もないんだ。いいか、せっかく大企業にいるのに、辞めちまうなんてことは、絶対に考えない方がいい」

 会社が古くさくて我慢がならないと、飲みながら愚痴をいったとき、その男は自分の肩に手を置いて自分を諭した。

 彼から聞かされる社会の現実に憤ったけれど、それで自分が何かをできるわけでもなかった。そのまま、あっという間に20年という歳月が過ぎた。

 動いているシステムを変えることは簡単ではない。志があっても、ふつうに目の前のことを一所懸命こなしているうちに、月日はどんどん経ってしまう。

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