これは“議論”か、はたまた“いじめ”か?
政府の「事業仕分け」洗い出し作業が始まり、国会議員と民間有識者らによる「仕分け人」と各府省の担当者のやりとりをみて、ふとそんなことを感じてしまった。
初日の、「私の話も聞いてください」と声を震わせながら訴える「国立女性教育会館」の神田道子理事長と、「私の質問に答えてくれればいい」とばかりに矢継ぎ早に質問を浴びせる蓮舫(れんほう)参院議員のやりとり然り。神田さんは、女性の社会参画と男女共同参画を唱えた先駆者的な人である。
2日目に行われた、都市部の若者に農業を体験させて農村の活性化を図る「田舎で働き隊!」事業の洗い出しでは、仕分け人が、必死に答える農水省担当者に対して、「表情的にもあなた、いい目しとるから、きっとそうなんだろうというふうに思うんですけれども、そういう理解でよろしいんですね」と問いかけ、農水省担当者が「ありがとうございます」と応じる様子。
もちろん、メディアで取り上げられたバトル以外の冷静かつ対等な議論もあったのだろうが、立派な見識ある大人が、まるで大型犬に睨まれた子犬のように萎縮する姿からは、「正義の味方」vs「無駄遣いする悪者」という構図が出来上がっていた。事業仕分けという試みが画期的であり、今までベールに包まれていた様々なことが“見える化”したことに非常に意味があるだけに、少しだけ残念だった。人間の本能に宿る“攻撃欲”とやらを目の当たりにし、恐ろしい気分にさえなったほどである。
人間の攻撃欲は、“権力”というナイフを持った途端、強まることがある。
以前、年下上司にパワハラを受ける男性をインタビューした時、
「人間は権限を持った途端、自分のほうが上だと思うようになるらしく、攻撃が始まるんです」と語っていたのを思い出す。
この男性は51歳、年下上司は44歳。中途入社の同僚がある日突然、上司になった。その途端、執拗な“いじめ”が始まった。
「上司になるまでは普通に話もしたし、決して悪い関係ではなかった。ところが私の上司になった途端、どうせパソコンは使えないだろうからって、一斉メールを僕にだけ送らなかったり、会議でもわざと調べないとわからないような細かい数字を聞いてきて、答えに戸惑っていると、『そんなことも知らずに何十年もこの仕事をやってきたんですか』とみんなの前で言う。僕にだってプライドがあります。気にしないようにしていますが、正直しんどいです」
男性はその後メンタルを低下させ、自宅療養を強いられた。
日本は「パワーハラスメント」対応の後進国
パワハラはここ数年急激に増え、「現代社会の闇」とも言える重要かつ難しい問題の1つである。
全国の労働局にある総合労働相談コーナーに寄せられた「パワーハラスメント」に関する相談件数は前年度より3907件増え3万2242件(2008年度)で、6年前の5倍に上った。「強く叱責され、殴られそうになった」「仕事のトラブルをすべて自分のせいにされた」「人格を否定するような言葉を言われた」などの相談が多く、若い社員だけでなく、先ほどのような年配社員からの相談も少なくないという。
また先日も、国際通信社トムソン・ロイターの日本法人トムソン・ロイター・マーケッツ(東京)を解雇された元編集者が「会社側のいじめで体調を崩した結果、解雇されたのは労働基準法に反し無効」として、社員としての地位確認と1000万円の損害賠償を求めて提訴しているとの報道があった。
訴状によると、元編集者であるこの男性は、昨年10月会社側から面談で解雇を警告され、「スクープ記事を今後、3週間に1本以上書く」「常に、手直しの必要のない完全原稿を出す」などの勤務目標を示されたという。元編集者はその後体調を崩すなどし、今年6月に解雇されている。会社側は「元編集者は解雇ではなく退職。主張の内容も事実と全く異なるので争う」との見解を示している。
レンホウ氏のやり方が“いじめ”なら、一般の会社で日常行われている販売会議や経営会議は全て“かなり厳しいいじめ”に分類されるのではないか。社会的な“いじめ”は、やられる方ばかりを養護する傾向があるが、本当にそうなのか。確かに上司としての指導、叱責が“いじめ”にしか見えない役職者もないとはいえない。しょっちゅうそんな指導をしている上司は、部下が見放し結果役職を追われることになるだろう。たまに要領よく生き残る役職者もあるが、公平を維持できない組織は衰退する。“いじめ”にならない指導を勉強することは、役職に就くための必須項目であり、部下は“いじめ”をバネにするぐらいのタフさがなければこれからの時代、生きてはいけないのでないかと思う。(2009/11/21)