「ニッポン「文化産業」復活への処方箋」

空前のヒットに潤うクラシック音楽

将来が有望なのは、強固なピラミッドのおかげ?

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2009年11月20日(金)

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 クラシック音楽業界は、今秋あるピアニストのCDの過去にない大ヒットに沸いている。そのピアニストの名は辻井伸幸氏。6月7日、米ヴァンクライバーン国際ピアノコンクールで、日本人として初の優勝を果たした。視力障害にもめげない偉業だ。

クラシック界では過去にない大ヒットとなった辻井伸行氏の「DEBUT(デビュー)

 彼の「Debut(デビュー)」というアルバムは一気にファンの心を捉えヒットに火がついた。辻井氏のアルバムは、9月20日までの約3カ月に約21万枚も売れた。また辻井氏のアルバムは、ふだんはポップスが上位を占めるオリコンの総合ランキングの2位と3位にも入った。

 辻井氏のCDを販売するエイベックス・クラシックスの中島浩之プロデューサーも「ここまでの人気は、クラシック業界では異例中の異例だ」と見る。

成長が続くクラシック市場

 クラシック音楽は一見ビジネスから縁遠いイメージがある。“高尚”“教養主義”というイメージが若い世代を遠ざけているともいわれる。だが実態を見ると意外に底堅いビジネスである。今回はクラシック音楽のビジネスモデルを探求する。

 クラシック音楽の市場規模は約300億円超である。音楽市場全体(約1500億円)の約2割を占める。他のジャンルの文化市場、例えばジャズ(約30億円)、歌舞伎(約70億円)と比較するとかなり大きい。クラシック音楽の市場は主にCD、コンサート、趣味・教育市場の3つから構成されるが、注目すべきは前者2つの成長ぶりだ。

 近年、CDの市場は減少傾向が続いていた。ところが2004年以降は増加に転じている。2004年には約60万枚だったものが2006年には約140万枚に増えた。クラシックは1曲が長い。またファンの年齢が比較的高い。こうした背景も手伝ってインターネットによるダウンロードサービスよりもCDが根強い人気を保っている。コンサート市場も調子がよい。2003年以降、毎年の動員数が増えている。

 クラシックの音楽家の収入はどうか。全体の平均年収は約300万円と決して高くはない。だがポピュラー音楽(約240万円)、現代演劇(約190万円)よりは高い。また大手の交響楽団の団員の年収は400万〜500万円台が多く、中には1000万円を超えるケースもある。さらに「プロの指揮者や演奏家はアマチュア向けに指導する機会が頻繁にある。副収入がかなりある」(大手交響楽団団員)とされる。

 日本経済が全体に収縮する中で、クラシック音楽市場はどうやら堅調かつ安定収益を得ているといえそうだ。この背景を探っていこう。

まず第1歩は、学校教育で

 クラシック音楽の強さを支える大きな要因は、強力な人材育成モデルである。

 クラシックが他の音楽と大きく違うのは小中学校の音楽の授業の存在である。日本人は小学生の頃からクラシックに触れ、いいもの、権威のあるものだと刷り込まれる。小さい頃から国家がリテラシーを開拓してくれる。明治以来の文化教育の賜物といえる。

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著者プロフィール

上山 信一(うえやま・しんいち)

慶應義塾大学総合政策学部教授
1957年大阪市生まれ。京都大学法学部、米プリンストン大学大学院(公共経営学修士)卒。旧運輸省、マッキンゼー(共同経営者)などを経て2007年から現職。専門は企業・行政機関の経営改革。大学での本務のほか各種企業の改革アドバイザー、大阪府特別顧問、新潟市都市政策研究所長等を兼務。著書に『だから、改革は成功する』(ランダムハウス講談社)、『ミュージアムが都市を再生する』(日本経済新聞社)、『行政の経営分析―大阪市の挑戦』(時事通信出版局)、『政策連携の時代』(日本評論社)などがある。

新井 優大(あらい・まさひろ)

慶應義塾大学、クリエーティブ産業研究会

松野 典香(まつの・のりか)

慶應義塾大学、クリエーティブ産業研究会



このコラムについて

ニッポン「文化産業」復活への処方箋

 社会が成熟する中で、これから重要な役割を担うのがアニメ、ゲーム、日本映画、クラシック音楽などの分野だ。これをビジネスと捉えるならば、「文化産業」と名づけることができる。製造業が弱体化する中で、こうした産業は日本の次の成長の糧の1つとして期待される。これらのビジネス自体は昔から存在する。だが、きちんと儲かる事業形態、つまりビジネスモデルの構築に成功したものは少ない。映画、アニメ、現代美術、和文化などさまざまな分野を例にとってビジネスモデルを評価していく。
 慶応義塾大学総合政策学部上山信一ゼミとのコラボレーション企画。
 監修・編集=上山信一教授

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