会員登録数1425万人、動画総数326万本。産声から3年目にして、国民的動画サイトに成長した「ニコニコ動画」。動画の上を流れるコメント機能で視聴者の一体感を演出する仕組みは、独自の世界観を醸成し、それが人気の源泉となっている。
自作の楽曲やアニメ、ダンスなど創作の発表の場としても活用されており、ニコニコ動画から火が付いてメジャーになる作品やアーティストは少なくない。
だが、ニコニコ動画はその人気とは裏腹に、依然として黒字化を達成できていない。運営会社のニワンゴを傘下に抱えるドワンゴは煽りを受け、未だに赤字に窮している。
11月12日に発表した2009年9月期連結決算の最終損益は、期中の黒字予想から一転、7億8200万円の損失と4期連続の赤字になった。ニコニコ動画に関する事業資産の減損損失を新たに10億5855万円計上したことが響いた。

動画サイトは高コスト体質の事業。視聴者数が増えれば増えるほど、サーバーなどの設備投資がかさみ、回線使用料も重くのしかかる。携帯電話向けの着うた配信事業などで儲けたカネが、ニコニコ動画への投資で吹き飛ぶ構図だ。
「ニコ動」はドワンゴのスネをかじるだけの放蕩息子なのか、はたまた、未来の孝行息子なのか――。キーパーソンが、ニコ動の経営を語る。
11月14日夕方、仙台市内のライブハウス。狭い箱を埋め尽くした200人ほどの観客が、壇上のパフォーマンスに湧いている。
「いやぁ、この前、転んじゃってさぁ。すげー大きなたんこぶができちゃったんだよね、ほら」
視線の先でマイクを持つのは、「iモードの生みの親」と言われる元NTTドコモの執行役員、現ドワンゴの夏野剛取締役である。
この日は「ニコニコ大会議2009-2010」と銘打った全国ツアーの初日。仙台を皮切りに来年2月にかけて全国8カ所を回り、ニコ動の新機能や新サービスを紹介する。当地に縁のあるニコ動で有名になった「踊り手」や「歌い手」などとともに、トークライブも繰り広げる。
その司会進行役として、夏野取締役はすべてのツアーに参加する。ツアーのプロモーション映像では、派手なメイクを施し、ロックバンドの一員に扮してピーアール。ユーザーからの人気は上々だ。
携帯電話業界をリードし続けたビジネスマンとは思えぬ八面六臂の活躍。本業は、“ニコ動の黒字化担当”だ。
「世界に通用する日本発のITサービスはニコ動しかない。世界に出るためには、黒字化が必須。そのために、僕はここへ来た」
そう語る夏野取締役の肩に、ニコ動の赤字が重くのしかかる。来月、夏野取締役がドワンゴ役員に就任して、1年になる。いつになったら、ミッションを達成できるのか。
◇ ◇ ◇
1965年、神奈川県生まれ。1988年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、東京ガスに入社。1995年、ペンシルベニア大学経営大学院ウォートン・スクールで経営学修士(MBA)を取得、帰国後、インターネット接続サービスのハイパーネットの副社長に就任。1997年、NTTドコモに入社、iモード事業の立ち上げやおサイフケータイの導入などマルチメディア戦略の要を担う。2005年6月、NTTドコモ執行役員に就任。2008年6月、同社を退社しトランスコスモス社外取締役、NTTレゾナント社外取締役に就任。同年7月、ドワンゴ常勤顧問に、同年12月、ドワンゴ取締役に就任、ニコニコ動画事業の経営戦略を担当
夏野 実を言うと、開発のスピードを緩めれば黒字化はすぐできます。だけど、少なくとも数カ月に1つはものすごく大きな新サービスを投入しているわけです。小さい機能強化も含めればほとんど毎月ね。
このスピードが緩んだ時に、「ニコ動」の強みが失われると思っていて、緩めるわけにはいかない。毎月のように新しいサービスを投入していると、当然、毎月コストが上がっていくわけですよ。
コストを抑えて黒字化させることはできる。できたんです。簡単でもないけど、できたんです。だけど、それはやらない。やってしまうと、それは「ニコ動」の競争力を失うから。
「黒字化よりも、事業に競争力があるかどうかが大事」
夏野 2008年11月の決算説明会の場で、小林(宏ドワンゴ社長)さんが「2009年6月には単月黒字化する」と言ったことに対して、僕はめちゃくちゃ怒ったんですね。
小林さんに怒ったんじゃなくて、広報に「そんなことを言わせちゃだめじゃん」と。だって、あれは台本が作ってあるんだからさ。そんなことを決算説明会で言わせたら最悪じゃないかと言って怒りまくったんですけど。
つまり、そういう目標値を提示してしまうと、それを叶えることを目標にして、ユーザーを置き去りにしちゃうことになるから。そこまでに黒字化させなきゃいけないというメンタリティーが働きますよね。それが嫌だと。
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