物が売れない時代になった。お客様は本当に欲しいものしか買わない。売れないだけでなく、売れ行きに対応するのが難しい時代にもなった。何が売れるかの予想が当たらないし、急に売れたり、急に売れなくなったりする。商品を売る小売業も、商品を在庫し物流する卸業も、商品を生産するメーカーもやりにくい時代になった。売り上げも増えないし、利益を出すのは至難の業である。
需要が旺盛な高度成長期は良かった。メーカーはマーケット調査をし、商品を企画し需要を予測すれば、結構当たったし、マスメディアで広告すれば大ヒットする商品もたくさん出た。卸業は、在庫計画も立てやすく、リスクも少なかった。メーカーの帳合制(メーカーが卸を通じて特定の小売業者にだけ販売)や建値制(メーカーが流通の利潤を含めた小売価格を決定)も維持しやすかった。
小売業は店舗を作って、そこそこの商品を並べておけば何でも売れたし、価格を安くすれば飛ぶように売れた。マーケティングがやりやすい時代だったと言える。しかし、成熟期になり、環境は大きく変わった。今は不況でもあり、さらに厳しい環境になっている。それなのに、今まで通りの需要が旺盛な時のマーケティングでいいんだろうか。
もうタンスもお腹もいっぱい
具体的な話で考えてみよう。ワイシャツを買うとする。高度成長期でまだモノを十分に持っていなかった時代は、ワイシャツが3枚しかなかったという状態だ。枚数が少なくて、洗濯にも苦労するから、もう何枚かは欲しいだろう。
需要が旺盛だと言える。こういう時は、ワイシャツにあまりうるさいことは言わずに、そこそこの物であればいいから買いたい。安ければさらにいい。今まで3900円だったワイシャツが2900円で売っていれば、喜んで買うだろう。安くすれば、どんどん売れたのである。
それに対して、成熟期でモノをたくさん持っている今は、ワイシャツを10枚も持っているという状態だ。もうタンスにも入らない。需要は減退している。3900円のワイシャツを既に10枚持っている時に、同じような商品が2900円になっても買う気は起こらない。
いくら安くても、もう十分に持っているから、要らない。でも、4900円で、着心地の良い生地や、お洒落なデザインのワイシャツならどうだろう。少し高くても買いたくなるかもしれない。お客様の需要は減退しているが、買わないわけではない。価格が安ければ何でも買うのでなく、買いたいと思える商品で、価格が納得できれば買うのである。
あるいは、食後でもうお腹がいっぱいだったとしよう。もうこれ以上食べたくない。需要が減退している状態だ。こんな時に、「何か食べますか」と聞かれても、「要らない」と答えるだろう。
じゃあ、絶対に何も食べないだろうか。「デザートのプリンでおいしいのがありますよ」とか、「ちょうど梨が出始めでおいしいものがありますよ」とか薦められたら、それなら食べようかとなることもあるだろう。売るためには、買う気にさせる知恵が今まで以上に必要になっている。
マーケティング学者でもないし、マーケティング理論を確立しようとしているのでもないが、どうも今までのマーケティングがしっくり来ない。不十分な感じがする。コストを下げるために大して特長のない商品を大量生産し、マスメディアで広告し知名度を高め、スーパーマーケットの店頭にただ並べておくだけで売れる時代ではない。
マーケティングのレベルを大幅に上げていかないと売れなくなっているのだ。商品の企画の仕方、価格の付け方、小売業との関係、プロモーションの仕方を変えていかないといけない。新しいマーケティングが必要だと考えている。
何が売れるかは分からない
今までのマーケティングはメーカー主導のマーケティングであった。商品を生産するメーカーが、商品の企画を考え、価格を決め、どこでどう売るかのチャネルを考え、プロモーションをして売り込んでいく。小売業は蚊帳の外であった。売る側が主導であったが、これが通用していた。しかし、同じ商品でも、売り場での売り方により、売れ行きが大きく差がつくようになった。マーケティング的に売り場の重要性が高まっている。
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成城石井相談役。1956年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、79年にイトーヨーカ堂入社。経営トップ直結の「業務改革」の主要メンバーとして構造改革に取り組む。その後、プライスウォーターハウスコンサルティングのシニアコンサルタント、財団法人流通経済研究所の研究員を経て、90年7月、流通コンサルティングを手がけるリテイルサイエンスを設立。ファーストリテイリング(ユニクロ)や良品計画の経営改革を担当する。2003年9月にドラッグイレブン代表に就任、2007年1月から成城石井社長を務め、2010年9月から現職。







