「COLD JAPAN(コールド・ジャパン)」

キリン・サントリーは“カラータイマー付き”合体ロボ。必殺技が「リストラ」では困る

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2009年11月24日(火)

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 私はかつて、とあるIT関連の上場企業でCFOとして10社以上のM&Aに携わりました。当時、M&A戦略の軸として考えていたことが1つだけありました。それは「事業ポートフォリオの拡大」です。

 当時、私がCFOをしていたその会社は、たった1つの大ヒットソフトウェアだけで急成長を遂げたベンチャー企業でした。しかし、「次世代の成長を担うようなものがなかなか出てこない。このままでは成長に行き詰まる・・・」。このような危機感を持っていたのは、私だけではなく経営陣のほぼ全員が共有していました。

 そこで、「次なる事業の核を作り、シームレスな成長をしていこう、シングルプロダクト体制から脱け出そう」をかけ声にして、積極的なM&Aに打って出たのです。

 前回紹介したキリンとサントリーの経営統合と、私が当時手がけたベンチャー企業のM&Aとどこが違うのでしょう?

 規模が違う?はい。そうです。しかし、「規模」以上にもっと本質的な違いがあるのです。

キリンとサントリー、なぜ経営統合が必要なのか

 キリンとサントリーの経営統合は、いくつかあるM&Aのタイプの中で、いわゆる「ロールアップ」と呼ばれているものです。

 この「ロールアップ」という戦略は、一言で言ってしまえば、同業他社を買収していくことによって(または合併することによって)、シェアの向上やバリューチェーンの内製化をすることを目的としています。

 今回のキリンとサントリーの経営統合については、明らかに「国内市場でのシェアの向上」を目指していると考えられます。前回の議論にもありますが、キリンとサントリーが経営統合すれば、世界市場に見てもネスレ、ユニリーバに匹敵する規模になります。中堅クラスの食品総合メーカーの誕生です。

 一方、私が携わったM&Aには幸か不幸か「ロールアップ」型のものは1つもありませんでした。むしろ、血道を上げていたのは、先述したように「事業ポートフォリオの拡大」です。「既存の事業ポートフォリオとM&Aで獲得した新規事業の間にシナジー効果がでれば、足し算だけではなく、掛け算的な効果がでるのではないか」と、当時の私は、掛け算(シナジー効果)に期待をしていたのです。

 今回のキリン・サントリーのような「ロールアップ型統合」では、おそらく掛け算になるようなことはない、と考えるべきでしょう。というのも、キリンとサントリーでは基本的な事業ポートフォリオが重なっているからです。ロールアップというものは、あくまでも市場におけるシェアを高めて、「規模の経済」を追い求めることであり、それぞれの事業のよいところを掛け合わせて倍々で拡大していけるというわけでは“ない”からです。

「足し算」には「引き算」が必要だが、「掛け算」はない

 キリンとサントリーでは、主たる事業である飲料は重複してます。「足し算」以上にはなりません。この経営統合が成功するためには、統合される2社の間で重複する資産・人員などの合理化が必至。「ロールアップ型統合」では単純な「足し算」がベースになっています。売り上げは「足し算」ですむかもしれませんが、両社の重複する投資や費用を効率化した上で、減らしていかなければ、統合の意味がないのです。

 売り上げの「足し算」の後は、投資やコストの「引き算」が必ずセットになっていることに気が付かなければなりません。

 もちろん、キリンとサントリーの2社は、それについて無自覚なわけはありません。キリンについては、11ある国内のビール工場の2つを閉鎖し、9工場体制にすると発表しています。こういった動きは、重複する生産設備の合理化という「引き算」が既に始まっていることを示しています。

 こういった「足し算」と「引き算」を同時に行わなければならない経営統合は、縮小する日本の国内市場に対しては有効でしょう。

 しかし、前回の議論で見た通り、海外の飲料・食料会社の巨人たちと比較した場合、キリンやサントリー単体ではまだ小さい。2社で束になって初めて海外の巨人たちと伍して戦うことができるという状況なのです。

 そのために、日本国内での圧倒的なシェアを確保し(足し算の効果)、縮小する国内市場へ対処すべく(引き算の効果)、両社が統合に向けて動いた、ということになります。

 日本国内での圧倒的な収益力と規模をベースに海外展開を図る。そのためにキリンとサントリーは、規模を拡大し、国内市場での圧倒的な収益力や安定的な財務基盤を持たなければならないのです。そうでなければ、世界の食品メーカーの巨人たちと戦っていくことはできないのです。

カラータイマー付きの合体ロボ型 その必殺技は?

 キリンとサントリーが軸足を置く日本の国内市場は、年々縮小していきます。

 日本国内で確保された利益を海外展開に振り向けるわけですから、国内で稼げるうちに稼がなければなりません。また、縮小する市場に対応してリストラも進めなければなりません。となれば・・・、国内市場の縮小が早いか、リストラと海外展開が早いか。まさにこの2つの競争です。リストラのスピードと海外展開のスピードが遅いと、ピンチのウルトラマンのようにカラータイマーが点滅し始めます。

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著者プロフィール

細山 和由(ほそやま・かずよし)

ウェイクアップ・ニッポン!プロジェクト代表。日本興業銀行(現みずほコーポレート銀行)にて米国債・各種デリバティブのトレーディングを担当した後、ITベンチャーへ。ITコンサル会社の起業、投資顧問会社勤務を経て、フリーライターとして日経ビジネスアソシエなどに寄稿。その後、上場企業のCFOとして在任期間中に時価総額を10倍以上に押し上げることに貢献。日本経済の最前線での経験や上場企業で学んだ経営ノウハウ等を生かし、現在はスタートアップ企業のインキュベーションを行っている。一橋大学経済学部卒。東京在住。

黒澤 俊介(くろさわ・しゅんすけ)

ウェイクアップ・ニッポン!プロジェクト副代表。ソニー出井伸之氏の社長・会長時代におけるリ・ジェネレーション(再生)戦略のフラッグシップスタッフとして、VAIO、So-net、メディアージュ、スカパー!など矢継ぎ早に新規事業立ち上げに成功。さらに元マイクロソフト・ジャパン社長の成毛眞氏率いる投資ファンド、携帯ITベンチャーなどで米国・欧州と日本を結ぶ企業を次々に設立、取締役、創業時の社長を歴任。現在は日本映画の米国進出支援ビジネスをリードしている数少ない日本人の1人。東京大学経済学部卒。LA在住。



このコラムについて

COLD JAPAN(コールド・ジャパン)

新たな政権を迎え、気分も新たに成長を進めようとしているニッポン。しかし、一方で停滞する国内市場のもと喘いでいる企業も多く景気の先行きが不安視されている。つまり、「クール=カッコいい」ジャパンと自己満足的に呼んでいるわりには内情は冷え切っており、なにか新しい世界との関係や突出したビジネスを誰もが渇望してやまない状況となっているようだ。本連載では、最新の事例やケース=症例を豊富に取り上げながら、「巣ごもり」「ガラパゴス」等と揶揄される「コールド」なニッポンの現状を理論的な切り口で分析、《コールド・ジャパン》脱却と新たな成長のための〈処方箋〉を提言していく。本連載が、国内市場の凋落を前に、気分新たにこれからの成長を模索している企業の経営幹部やキーパーソンの方々のヒントになれば望外の喜びである。

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