「やっぱり社長は楽しい。だって、自分ですべて決められる。大変だとか、孤独だとか、いろいろ言うけど、自分で決められるのは、何事にも替え難い喜びです」
これは以前、世界に通じるワザを持つ中小企業を取材する番組で出会った、ある会社の社長が語っていた言葉である。社長という立場がもたらす喜び――。おそらくこのトップは、それがいかに“危険な感情”なのか、気づいていなかったのではないだろうか。
知人のA氏がトップの座についたのは、昨年の春。先代の社長は会長になり、A氏も社長の喜びに浸れるはず……だった。
「こんなことを言ったら罰が当たるかもしれないけれど、どこか悪くなって入院して欲しいとも思ってしまう。役員面接もセットしてやっと中途採用を決めたのに、会長は突然NGを出した。一度はOKを出し、やっぱりダメと言い出した。内定を通知していたから既に相手も退職届を出していて、結局、違約金を払うことになったんです。本当にたまらない。訳がわからない」。A氏は取り乱した様子でそう語りだした。
A氏の会社は200人規模のオーナー会社。先代の社長は75歳まで陣頭指揮をとっていたが、昨年、高齢を理由に会長職に退いた。A氏によれば、本当は、多くのオーナー社長がそうであるように、子供に社長職を任せたかったらしい。ところが、そのジュニアは“社長の息子”という肩書きだけで存在しているような人であり、二代目となって継ぐ器量も実績もなかった。そこで、社長のイスを社内ナンバー2だったA氏に譲り、自身は会長職に退いた。ただし、会長は息子を社長室に送り込み、A氏を間接的に見張ったのだった(あくまでもA氏の解釈です)。
そして、今回の採用中止の一件である。
社長はその座を退いても影響力を与えたい
その採用でA氏は熟慮を重ね、「やっと見つけた人材」だったそうだ。新しい人材を採用するにはコストもかかれば、労力もかかる。ましてや即戦力を期待する中途採用なのだから、安易な気持ちでは採用などできやしない。
「よし、あとは役員会の承諾を得るだけだ」とホッとしたところで、突然のNG。しかも、説得すればするほど、頑なまでにNGを出す。採用された人材に問題があるのなら、まだ納得もできるのだが、どうやらそういうわけでもないらしい。ただ単に、「なんで、キミが勝手に決めるんだ」と、A氏の権限で採用を決めたことに不快感を示したそうだ。
「代表権をもったまま会長になったから、無視するわけにはいかない。今回の件も違約金が発生したから、一度はNGを取り下げた。ところが、占いで何か言われたようで、やっぱりダメと言い出した。社長時代から、何かを決める際は占い師に相談しているようなんです。おまけに、今回の人事問題を皮切りに色んなことに口を出し始め、院政が始まった。入院でもして欲しいと本気で思えてきます」
A氏のケースだけでなく、社長の座を退いた後でも影響力を行使し続けるトップは実に多い。特に一代で築き上げたオーナー会社のトップは、「会社は俺のもの。俺が守らなくて誰が守る。俺が作った会社を壊されてなるものか」などと、自分ですべて管理し、自分の判断こそがすべてだと思い込む。それでも迷いが生じるのが人間だ。そこで、占い師に占ってもらったりするわけだ。
「大切な決断を高校生でもあるまいし……」とも思うが、実際にそういうトップは少なくない。ただし、「〇×なんですが、どうしたらいいでしょうか?」などと、ある特定の出来事に関する解を求める人生相談とは異なり、「今、行動を起こすべきか? とどまるべきか?」と、星回りなどから自分の状態を占ってもらい、自身の決断を下すのだとか。
いずれにしても、自分の権力を再構築させるために人事を利用するのは常套手段の1つである。新しくリーダーに任命された人が、自分の下の重要なポジションにいる人物を外し、自分が外部から連れてきた人と交代させることで、「自分のカラー」を出そうとすることもある。A氏の上の会長も、自分の存在感を示したいが故のNGだったのかもしれない。
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保健学博士・東京大学客員研究員・気象予報士。千葉県生まれ。1988年、千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。2004年、東京大学大学院医学系研究科修士課程修了、2007年博士課程修了。長岡技術科学大学非常勤講師、東京大学非常勤講師、早稲田大学エクステンションセンター講師などを務める。医療・健康に関する様々な学会に所属。主な著書に『「なりたい自分」に変わる9:1の法則』(東洋経済新報社)、『上司の前で泣く女』『私が絶望しない理由』(ともにプレジデント社)、『







