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“誰”のための仕事なのか?

リストラで“人”が失うもの

2010年1月21日(木)

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 昨年にも増して、リストラが進行している。リストラの対象は、派遣社員から正社員へ、50代から40代、30代へ。つまり年齢がいくつであれ、明日は我が身と言っても過言ではない。にもかかわらず、1年前と比べて“リストラ報道”に熱がない。報道する側が慣れたのか。あるいは「こんな不況だから仕方がない」とあきらめたのか。

 「僕、リストラされた時はすごいストレスを抱えました。これからどうしようと不安ばかり募りました。でも今は、仕事がないことが、ストレスじゃなくなりました。慣れちゃったんでしょうか。それとも本当はストレスを感じているのに慢性化してしまい、感じなくなっているのでしょうか。僕、どこかおかしいでしょうか?」

 これは昨年、私の講義を聴講していた34歳の男性が言ってきたことである。彼は大手企業のSEだった。そこでリストラにあい、「ストレスで成長しよう!」という私の講義のタイトルに魅せられて受講したそうだ。

 そんな彼が、「リストラされて仕事がなくなってしまったことが、ストレスでなくなった」と言う。

 リストラされた時は屈辱感でいっぱいで、ご飯も食べられないほどショックだった。「なにくそ」とばかりに、次の就職先を探すがなかなか決まらない。そんなこんなで時間が経つと、“働かなきゃ”という労働意欲が萎えてきた。貧乏だろうとなんだろうと、ギリギリで生活さえできればいい。そんな気持ちになったのだという。

 年末年始に政府が設置した年越し派遣村で、お金を配った途端にいなくなった人が多数いたことや、お金をもらった途端、酒を買い飲んでいる人がいたという報道を聞くと、「いったいどれほどの人が、本気で仕事を探しているのか?」と内心思った人も多かったに違いない。また、これだけ「失業率が高い。仕事がなくて困っている人がいる」と報道されているにもかかわらず、求人募集に人が集まらない現実があることを知ると、「本気で働く気があるのだろうか?」と疑問を抱きたくもなる。

 その一方で、派遣村に来て臨時宿泊施設で亡くなった人がいたことで、「なぜ、もっと早く手をさしのべてあげなかったのか」と指摘する声もある。

 「生活保護だ、セーフティーネットだとかいうけど、本当に保護しなくてはいけない人がどれだけいるのか? 税金で保護するってことは、働きもしないでダラダラしている人のために、俺たちが汗流して代わりに働くってことなのか?」と不満をもらしていた知人もいた。

 以前、「何のために働くのか?」というコラムを書いたが、仕事とはいったい誰のためのものだろうか? 一連の世の中の動きを見聞きしながら、ふと考えてしまった。

リストラを健康社会学視点から考えると・・・

 そもそも失業すると人はどうなるのか?

 リストラにあうと、健康状態や精神健康が脅かされるから、セーフティーネットが必要なのか。それとも生活の基盤がなくなって死んでしまったら大変だから、生活保護が受けられるような仕組みさえつくればそれでいいのか。

 やれセーフティーネットだ、やれ雇用を増やせだ、と言うけれど、リストラのいちばんの問題点っていったい何なのだろう。

 というわけで今回は、仕事、あるいはリストラについて、健康社会学的視点から考えてみようと思う。

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「“誰”のための仕事なのか?」の著者

河合 薫

河合 薫(かわい・かおる)

健康社会学者(Ph.D.)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数は600人に迫る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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