「小売業に夢を翔けて」

情報システムをなぜうまく活用できないのか

売り手の意思を持った発注が本来の姿

バックナンバー

2010年2月8日(月)

1/4ページ

印刷ページ

 小売業にとって情報システムは重要な課題であるが、小売業の情報システム化は遅れていると思う。コンピューターのハードやソフトが進化し、通信の技術革新が進んでいるが、小売業ではその活用がまだまだ不十分である。

 小売業は人間的な仕事である。お客様は人間であるし、働いている人も人間である。人間が人間に喜んでいただくのが小売業の仕事だし、人間同士が力を合わせて働くのが小売業である。人間的な仕事だからこそ、情報システムを活用し、情報システムのサポートを得て、より人間的な仕事がしたいのである。

 小売業でも情報システムは導入されている。経理、財務での会計処理には古くからコンピューターは導入され、活用されてきた。人事や総務、店舗開発など、管理部門を中心に情報システム化は進められ、成果を上げてきた。しかし、肝心の営業強化での活用が不十分である。受発注のシステム化にも問題があるし、販売データや在庫データの活用などはまだまだの状態である。

膨大なデータ量を読みこなせない

 小売業の営業の情報システム化が遅れているが、それには理由がある。まず、小売業の営業データは膨大な情報量である。少し規模が大きくなると、毎日、何万人のお客様が来店され、何十万の商品をお買い上げいただくようになる。商品の種類も多く、1店舗で何万、何十万というアイテム数である。1つ当たりの商品は、平均単価で数百円である。それが積み上がって何十億円、何百億円の売り上げになっていく。

 イレギュラーも多い。同じ商品の売価もしょっちゅう変わる。原価もいつ仕入れたかにより変わるし、同じ商品を違う取引先から仕入れれば原価が違ったりする。商品をセットにして売ったり、ばらしたりする。まとめ買いすればディスカウントされたりもする。

 POS(販売時点情報管理)データを紙にプリントアウトすると何センチメートルの厚さになり、そのデータ量に茫然とする。ここから何を読み取り、何をすればいいのだろう。上位にランキングされるのは特売して粗利益が少ない商品ばかりである。売れないのは売り場での売り込みが足りないとか、品切れしているからかもしれない。数が多すぎて見きれない。いろいろな要素が絡み合っていて読みこなせない。データを前に恐れおののくばかりである。

 受発注の情報システム化にも問題は多い。発注業務は小売業の基幹業務である。小売業には売り場での発注と、本部から取引先への発注がある。売り場で行われた発注が、小売業の本部に吸い上げられ、本部から取引先に発注データが送信される。これが一般的な発注の流れである。

 売り場での発注は、小売業の意思である。これから売れると考える商品、自分が売り込みたい商品を意思を持って発注したい。売り場の人間が、お客様のニーズを把握し予測し、それに合わせて発注する。売る側が自分で意思を持って、お客様に売り込めば、売り手の気持ちを感じて、買い手が買ってくれるのである。これが小売業の本来の発注である。

店舗での発注風景。「売り手の気持ちを感じて、買い手が購入を決める」というのが 成城石井の考え方だ
画像のクリックで拡大表示

 しかし、発注する商品数が膨大である。1つひとつの商品に対し、考える時間が十分に取れない。1000種類の商品を発注するのに、1つ1分の時間をかけると、15時間もかかってしまう。

 だから機械的な発注になる。今いくつあるから、何個の在庫になるよう発注しようとなる。機械的にやるだけなら、機械に任せればいい。個々の商品に基準在庫を設定し、店舗での計算在庫と比較して、その差を機械的に発注するのである。こう考えて自動発注システムで発注している小売業もある。

 自動発注を実用化する前提として、コンピューターにある計算在庫と、売り場に現実にある実在庫の差をなくしていかなくてはならない。棚卸で単品別に在庫を数えてコンピューターに登録し、POSの単品別販売データと単品別の仕入れ実績データで計算すれば、計算在庫と実在庫は一致するはずだ。

 現実にはいろいろな要因で差が出るので、差をなくすオペレーションの精度アップと、コンピューターの計算在庫を実在庫に変更する作業の実施も必要になってくる。

 売り上げはいろいろな要素により増減するから、売り上げを予測する必要があるが、それを自動発注に組み込む方法もある。過去の売り上げ実績から、商品別に季節指数を設定し、シーズンの売り上げの増減に対応した発注数にする方法もある。曜日別の指数や、価格を変更したりチラシに載せたりした場合の売り上げ変化を予測して、発注することもできるようになってきた。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント1 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

大久保 恒夫(おおくぼ・つねお)

大久保 恒夫成城石井相談役。1956年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、79年にイトーヨーカ堂入社。経営トップ直結の「業務改革」の主要メンバーとして構造改革に取り組む。その後、プライスウォーターハウスコンサルティングのシニアコンサルタント、財団法人流通経済研究所の研究員を経て、90年7月、流通コンサルティングを手がけるリテイルサイエンスを設立。ファーストリテイリング(ユニクロ)や良品計画の経営改革を担当する。2003年9月にドラッグイレブン代表に就任、2007年1月から成城石井社長を務め、2010年9月から現職。



このコラムについて

小売業に夢を翔けて

終わりのない低価格競争に疲弊する日本の小売業。もはや規模を追求するだけでは、消費者の満足は得られず、企業の成長も見えなくなってしまった。本コラムでは、イトーヨーカ堂、ユニクロ、良品計画などで小売業の改革を手がけてきた大久保恒夫・成城石井社長がモノを売る喜びと可能性を解き明かしていく。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン

日経ビジネスからのご案内