「「オトコらしくない」から、うまくいく」

第3回 いくら努力をしても「ほかにはないの?」と言われてしまう。なぜ?

バックナンバー

2010年2月9日(火)

1/4ページ

印刷ページ

清野 前回、佐藤悦子さんが28歳で外資系化粧品会社、クラランスのプレスに就いた時、全然アウェイで大変でした、という話が出ました。

佐藤 化粧品のプレスというと、私よりも一回りくらい上の方々が中心で、そういう方たちは、雑誌の編集長、副編集長クラスとも長年の信頼関係が築けているので、楽しく食事をしながら企画を決めていく、みたいな雰囲気に包まれていて。その点、私は本当にアウェイで、地道に同年代のご担当の方と関係を築くところから始めなければなりませんでした。でも、その立場が逆に役に立ったと思います。

(写真:樋口 とし)
画像のクリックで拡大表示

清野 アウェイにいるってしんどいから、手っ取り早く既存路線に合わせていきがちですが、そういう早道を通ると、学ぶことも学べなかったりして。

佐藤 その意味では、私は常にアウェイにいる気がします。佐藤のマネジャーとして、クリエイティブ業界に来た時も当然アウェイだったし、今だってクリエイターじゃない、という点ではアウェイですから。

本流にいないことの価値

清野 だったら、アウェイでいることって、大事なことなんだと思います。今回はそのあたりに焦点を当てたいと思います。

 SAMURAIの最近の成果に、釣具メーカーとして有名な「ダイワ精工」のCI(コーポレート・アイデンティティ)と、「ダイワ」ブランドのVI(ビジュアル・アイデンティティ)の刷新がありますね。2年ごしのプロジェクトで、その過程を私はちょっと取材させていただいたことがあります。

佐藤 はい、ダイワ精工のプロジェクト第一ラウンドが形になったんです。2009年9月25日に記者発表して、10月1日に「ダイワ精工」から「グローブライド」へと、社名変更をしました。また、今までは社名であり、ブランド名であった「ダイワ」はフィッシングブランドとして生まれ変わりました。

清野 なるほど。

佐藤 ダイワ精工は釣具メーカーだけとしてではなく、会社としてゴルフのオノフや、テニスのプリンスなど、素晴らしいブランドを展開しているんです。でも、オノフやプリンスがどんなに売れていても、「釣りのダイワ」、というイメージが必ずしも釣り以外のブランドにとってプラスに働くわけではなかったので、そこがクライアントにとっての課題だったんですね。

清野 良質なブランドを持っているのに、それが会社経営に生きていなかった、ということですね。

佐藤 ですので、まず企業としてのビジョンを明確にし、地球を舞台にスポーツの新しい楽しみを創造し、自然と触れ合う喜びを世界中に広めたいという思いを込め「Feel the earth(フィール・ジ・アース)」というコーポレートスローガンを開発しました。このコンセプトに基づいて「グローブライド」という社名とロゴを作り、それが、フィッシングやテニス、ゴルフ、サイクルスポーツなど、それぞれに自立した事業ブランドの連合体である、というように、新しいブランド構造を打ち出したのです。

 この辺りは、もちろんクライアントサイドの経営判断ですが、創立50周年を迎えるダイワ精工の本質や今後の展開をクライアントと共有しながら、いわば“第2の創業”ともいうべきプロジェクトをトータルディレクションさせていただきました。

清野 新社名のロゴがこちらですね。私はこのロゴを決めるプレゼンテーションを見学したのですが、いいロゴに決まってよかったですね。というか、やはり佐藤可士和さんが、イチオシにアピールしたロゴに決まるものなんですね。

佐藤 たとえばこの「DAIWA」のロゴは、釣具のグリップなどに浮き彫りでもあしらうこともあります。ということは、平面に加えて立体への展開も多々ある。そんな用途を考えた上でも、最も適切なデザインに決まったと思います。

清野 プレゼンテーションを見学した時に私がびっくりしたのは、可士和さんがスクリーンに映し出すロゴの、圧倒的な数量でした。それを可士和さんは余裕の微笑みで繰り出していくんです。

「ほかにはないの?」を圧倒し、「これしかない」と納得させる

清野 社名に始まり、次に「ダイワ」ブランドのロゴ、さらにそれぞれの展開例としてプロダクトにはめ込んだロゴ、といろいろなテーマがあるのですが、そのロゴデザインの候補が次から次へと、無数に映し出される。しかも、すべて考え抜かれたデザインで、それぞれが違うのだけど、バラバラな印象がない。ということは、どれに決めてもおかしくないクオリティで、見ているうちに、こんなに多くの候補を出さずとも、数点のロゴを並べて、最初のロゴで行きましょう、でいいんじゃないか、と思ったぐらいです。

佐藤 私もクリエイターの1案プレゼンが結局はベストだ、ということは、紆余曲折を経て、今ではよく理解しています。考えぬかれた1案をクライアントにプレゼンして、はい、決定です、みたいな流れは佐藤に限らず、すべてのクリエイターの理想ではないでしょうか。

 でも、私はすごい素人で一般人だから、「そうは言っても、ほかにはないの?」 と、やっぱり思ってしまうんです。

清野 ほかにはないの? と。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Keyword(クリックするとそのキーワードで記事検索をします)

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント4 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト。
1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界をまたにかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。国内外の都市開発、デザイン、トレンド、ライフスタイルを取材する一方で、時代の先端を行く各界の人物記事に力を注ぐ。『アエラ』『朝日新聞』『日本経済新聞』『日経ベンチャー(現・日経トップリーダー)』などで執筆。著書に『セーラが町にやってきた』(プレジデント社)、『ほんものの日本人』(弊社刊)、『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(集英社新書・隈研吾氏と共著)『「オトコらしくない」から、うまくいく』(佐藤悦子氏と共著・日本経済新聞出版社)など。



このコラムについて

「オトコらしくない」から、うまくいく

 自分の仕事の枠や殻を越える、破るのは、だれにとっても難しい。今までの働き方じゃダメなことは分かっても、新しい方法を試すには勇気以上の何かが必要だ。それにはまず、今までの自分を外から眺めて、考えること、ではないだろうか。でもこれだって相当難しい。毎日鏡をのぞき込んでもオトコたちは「ヒゲばかり見て、顔のシワを見ない」のだ。

 この連載では、従来の「まっとうな、普通な、誰もが認めやすい」、いわば「オトコらしい」働き方をあえて外から見直して、殻を破った、破らせた人々のお話を、時には母、時には妹、そして時にはアニキの凄腕インタビュアー、清野由美さんにざっくばらんに紹介していただく。

 まず登場するのは、ユニクロを手がけたことで知られるアートディレクター、佐藤可士和氏…ではなくて、彼のプロデュースを担当する、佐藤悦子さん。え、なぜご本人ではないのかって? やっぱりオトコって、可士和さんといえども、なかなかすぐには鏡が見られないのですよ…(編集Y)

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン

日経ビジネスからのご案内