他人から「ありがとうございます」と感謝されるだけで、ホっとすることがある。どんなに大変な仕事であっても、そう言われた途端、報われる。
「良かった。がんばった甲斐があった」。自分の存在が認められたと感じられ、自分の仕事に意味を見出すことができる。
ところが、感謝されることがなくなった、と嘆くようになった職業がある。
「感謝されたくて働いているわけじゃないです。でもね、非難されたり抗議されたりすることはあっても、感謝されることはめっきりなくなりました。子どもたちは受験に成功して塾の講師には感謝しても、僕らには感謝しません。保護者との関係も難しい。ここ20年くらいで、教師を取り巻く環境は大きく変わりました」
そう語るのは教師生活30年のベテラン教諭だ。
“モンスターペアレント”と呼ばれる保護者の存在が、教師たちを追い詰めているのか?、との私の問いに彼はこう嘆いた。
「確かに理不尽なことを言ってくる保護者はいます。でも、それはごく一部で、マスコミが騒ぎ立てているだけの感も拭えません。多くの場合、保護者と教師のコミュニケーション不足がきっかけで大きな問題になっています。教師も自信を失っているから、保護者と上手く対話ができないんです。特に若い教員は、保護者のほうが年上だったりするから余計ダメ。結果的に些細なことで相手を怒らせてしまったり、教師も異常に萎縮してしまうから、自分のメンタル面も低下し、登校拒否になったり、辞めたりする。子どもと向き合うことなく、保護者との関係で悩む教師は非常に多い」
子どもの親との関係で心病める教師たち
うつ病などの精神性疾患で2008年度に休職した全国の公立学校教員は、前年度より405人増え、5400人を超えた。これは病気休職している8578人の6割を占め、16年連続で増加傾向にあり、1979年度に調査が始まってから過去最悪となっている(文部科学省調べ)。同省が行った抽出調査によれば、うつ症状を訴える教員の割合は一般企業の2.5倍にも上っているという。
また、「保護者への対応が増えた」と感じている教諭は、小学校で74.9%、中学校では70.6%いる(2006年の文部科学省調査)。
相手がモンスターじゃなくとも、モンスターのように感じ、心病める教師たち。子どもが好きで、子どもの成長と向かいたくて先生になったのに、親との関係で悩み続ける教師たち。数年前にも東京都の区立小学校の若い新任女性教諭が、保護者との関係に悩んだ末、自殺したことがあった。
「若い先生が辞める」ことについては、実は私にも苦い思い出がある。
私の通っていた中学校にやって来た新人の家庭科の先生が、着任わずか半年間で辞めたのだ。先生が辞めた正確な理由は定かではないが、私たちのせいだったんじゃないか、と思っている。
その先生は“こふき”と生徒に呼ばれていた。家庭科の授業で粉吹き芋を作ったときに、誰かがそう呼び出したのが始まりだった。
“こふき”先生が辞めたきっかけは、新人教諭の授業を県の教育委員会の偉い人たちが見学にきたことだった(これが本当にきっかけかどうかはわかりませんが、私たちはそう解釈しています)。
当日はいつも通りの家庭科の授業に加え、簡単なミニテストが行われた。テストは回収されるのではなく、先生が生徒にその場で回答させ、それを先生が解説するというスタイルだった。
ところが私たちはテストの回答すべてに、家庭科以外の答えを書いた。誰が、どうしてそんなことを言い出して、何でそんなことをしたのかは覚えていない。
回答するとき、私たちは世界史や日本史の単語を次々と口にして、先生を困らせた。おまけに先生が、「答えは××です」と正解を言うと、「え〜、知らなかった〜」とみんなで言う始末。完全に先生のことを、なめ切っていたのだった。
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博士(Ph.D.、保健学)・東京大学非常勤講師・気象予報士。千葉県生まれ。1988年、千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。2004年、東京大学大学院医学系研究科修士課程修了、2007年博士課程修了。長岡技術科学大学非常勤講師、東京大学非常勤講師、早稲田大学エクステンションセンター講師などを務める。医療・健康に関する様々な学会に所属。主な著書に『「なりたい自分」に変わる9:1の法則』(東洋経済新報社)、『上司の前で泣く女』『私が絶望しない理由』(ともにプレジデント社)、『







