「鈴木友也の「米国スポーツビジネス最前線」」

カトリーナの悲劇を超え「見捨てられた男」がつかんだチャンス

スーパーボウルMVPブリーズ選手が守ろうとした権利

バックナンバー

2010年2月25日(木)

1/4ページ

印刷ページ

 2月7日にフロリダ州マイアミのサン・ライフ・スタジアムで開催された第44回スーパーボウル。アメリカンフットボール界で事実上の「世界一チーム」を決める戦いは、下馬評を覆して、NFC代表のニューオリンズ・セインツが、AFC代表の強豪インディアナポリス・コルツを31-17で下しました。セインツは球団創設43年目にして初めてスーパーボウルに出場し、その勢いで栄冠を勝ち取りました。

優勝を祝福する紙吹雪の中、1歳になった長男を抱き上げるブリーズ選手 © AP/アフロ
画像のクリックで拡大表示

 大会新記録のパス成功率をマークしてスーパーボウルMVPに輝いたQB(クォーターバック)のドリュー・ブリーズ選手は、快進撃を支えた立役者です。優勝を祝福する紙吹雪の中、奥さんと1歳になった長男の3人で優勝トロフィーを抱きしめる姿に、多くのアメリカ国民は涙しました。特に、ホームタウンのニューオリンズ市民には、夢のような光景だったでしょう。

 なぜなら、ブリーズ選手は「見捨てられた男」として、「見捨てられた街」のニューオリンズに流れ着き、やっとチャンスをつかんだ苦労人だったからです。悲劇が街を襲った5年前、誰がこの日の光景を想像できたでしょうか。

荒廃した街の選手が、エリート軍団を破る

 2005年8月に米東南部を襲った観測史上最大級のハリケーン「カトリーナ」は、1800名以上の犠牲者を出す未曾有の大災害をもたらしました。多くの住民がリビングルームで溺死した衝撃的な映像ばかりでなく、支援物資の不足などによる高齢者の衰弱死など、悲惨な二次災害も次々と報じられました。さらには略奪や強盗、銃撃戦などが巻き起こり、近代都市が一瞬にして無法地帯と化したわけです。

 あれから4年半――。

 ニューオリンズには、当時の被害の爪痕が残っています。決壊した堤防は応急措置が施されたまま放置され、廃墟となった家並みが、まるで時が止まったかのように残っています。

 「見捨てられた街(Forgotten Town)」

 いつしかニューオリンズはそう呼ばれるようになりました。ブリーズ選手がそこにやってきたのは、ちょうどカトリーナの翌年のことでした。

 実は、ブリーズ選手はアメフトのエリートではありません。QBとしては身長が低かったことから、地元テキサス州のフットボール名門大学からは声がかからず、故郷から900マイル(約1350km)も離れたインディアナ州の大学に進学することになりました。大学時代に数々の記録を打ち立てたにも関わらず、身長の問題や肩が強くなかったことから、2001年のドラフト会議でサンディエゴ・チャージャーズに指名されたものの、前評判よりも評価が低い第2巡指名でした。

 そのチャージャーズでは、エースQBとしては思うような戦績が残せず、2004年に現スターターのフィリップ・リバーズ選手が入団したのを境に、お払い箱になります。しかも、シーズンの終盤に肩を負傷するという不運に見舞われてしまいました。

 結局フリーエージェントになったブリーズ選手は、チャージャーズを離れざるを得なくなります。ところが、肩の負傷もあって、どのチームからも声が掛かりません。そして、最後にブリーズ選手に救いの手を差しのべたのが、直前にチーム監督となったショーン・ペイトン氏でした。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント1 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

鈴木 友也 (すずき・ともや)

鈴木 友也 ニューヨークに拠点を置くスポーツマーケティング会社、「トランスインサイト」代表。1973年東京都生まれ。一橋大学法学部卒、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、マサチューセッツ州立大学アムハースト校スポーツ経営大学院に留学(スポーツ経営学修士)。世界中に眠る現場の“知(インサイト)”を発掘し、日本のスポーツビジネス発展のために“提供(トランス)”する――。そんな理念で会社を設立し、日本のスポーツ組織、民間企業、メディア、自治体などに対してコンサルティング活動を展開している。ほかにも講演、執筆でも活躍中。著書に『スポーツ経営学ガイドBOOK』(ベースボール・マガジン社、2003年)、訳書に『60億を投資できるMLBのからくり』(同、2006年)がある。中央大学商学部非常勤講師(スポーツマネジメント)。ブログ『スポーツビジネス from NY』も好評連載中。Twitterのアカウントはtomoyasuzuki

(写真 丸本 孝彦)



このコラムについて

鈴木友也の「米国スポーツビジネス最前線」

「スポーツビジネス先進国」と言われる米国。その市場規模や人気などで日本を凌駕する。そこでは、日本にいては思いつきもしない先進経営が繰り広げられている。だが、進みすぎたが故の問題も内包する。米在住のスポーツマーケティングコンサルタントが、米国スポーツビジネスの現場を歩き、最新トレンドを解説していく。
果たして、米国は日本スポーツ界の「模範解答」となるのだろうか?

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン

日経ビジネスからのご案内