「すべては倉庫番が知っている」

「ペリカン便」消滅後の物流市場

宅配便事業の統合失敗で郵便事業は底が抜ける

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2010年3月2日(火)

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 どこまで本気なのかは分からないが、亀井静香郵政・金融担当省が「日本郵政グループの約22万人の非正規社員のうち希望者全員を正社員にする」とぶちあげている。

 非正規社員の大半は郵政4事業の中でも郵便事業に従事している。郵便事業の労働力の約半分が非正規社員だ。

 正社員と非正規社員では、実質的な人件費コストが「2倍違う」と言われる。そして郵便事業は、人件費が営業原価の約65%を占めている。

 郵便事業の平成21年(2009年)度予算の人件費は1兆1141億円で、営業利益は287億円だ。非正規社員のほんの一部を正社員化するだけでも大幅な赤字に陥る。

 収支を合わせるには、ゆうちょ銀行・かんぽ生命の利益で穴埋めするか、郵便料金を大幅に値上げするか、あるいは赤字を税金で補填するほかない。

 しかし、利益の付け替えは、ゆうちょ・かんぽの将来の株式公開を正式に取り下げない限り実施できない。結局、正社員化のコストは利用者あるいは国民が赤字を負担することになるだろう。

1000億円以上残っている日通の荷物

 一方、「ゆうパック」と日本通運の「ペリカン便」の統合では、2008年6月に両社が共同出資で設立した宅配便事業会社のJPエクスプレス(JPEX)を清算し、郵便事業会社に吸収合併することが既に決定している。

 これに伴い今年6月末で日通のペリカン便は消滅する。ただし、ペリカン便の荷物がそのままゆうパックに移るとは限らない。

 日通が2009年4月にJPEXに承継したペリカン便事業は当時の売上高1672億円のうち644億円分に過ぎない。残り1000億円分以上は現在も日通に残っている。

 この残りは日通が物流センターの運営事業として、庫内作業と合わせて宅配便の配送まで受託している分だという。

 つまり日通がJPEXに承継したペリカン便は、セールスドライバーが1個ずつ集荷している荷物や消費者間のCtoC(コンシューマー・トゥ・コンシューマー=消費者−消費者間)の荷物であって、物流センターからまとめて出荷する大口顧客のペリカン便はまだ承継されていないということになる。

 大口顧客向けの宅配便の料金は水面下の相対交渉で決まる。その実勢相場はバラの荷物と比較して格段に安い。

 しかし、郵便事業会社の直営に戻ったゆうパックは、取引の公平性や民間企業とのイコールフッティング(同じ競争条件)の縛りがきつくなるため、特定荷主を優遇することが難しくなる。

 そのため現在も日通に残っているペリカン便の相当部分は、ゆうパックではなくヤマト運輸や佐川急便に流れると筆者は予測している。

 その結果、ヤマト・佐川の「2強」がさらにシェアを伸ばし、ペリカン便とゆうパックを合わせた「第3勢力」は、統合前よりも大幅にシェアを落とすことになる。

 宅配便のコストは配送密度で決まる。シェアの違いは、そのまま各社の収益性に反映される。郵便事業は2011年度に宅配便事業の単年度黒字化を目指すというが、達成は容易ではないだろう。

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著者プロフィール

大矢 昌浩(おおや・まさひろ)氏

1964年、東京生まれ。日本大学芸術学部大学院修了。日経BP社発行「日経ロジスティクス」記者、流通専門誌編集長を経て99年、ライノス・パブリケーションズを設立。2001年4月に「月刊ロジスティクス・ビジネス(LOGI-BIZ)」創刊。同誌の編集発行人として現在に至る。2004年4月〜2007年3月、多摩大学大学院客員教授を兼務。



このコラムについて

すべては倉庫番が知っている

原材料の調達から工場での加工、店舗までの配送と、企業や産業のあらゆる活動を“裏方”として支える物流。ここからは、表層からはうかがい知れない経営や経済の動きが浮かび上がってくる。そこから見えてくる課題は、単なる物流改善に伴うコスト削減にとどまらず、企業に構造改革を促すテーマである。10年以上も物流業界を取材してきた筆者が、“倉庫番”だから知り得る日本企業の実像をリポートする。

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