これで連載も最後になった。多くの方に読んでいただき心から感謝している。今回は、私の小売業への思いを書かせていただき、最終回にしたい。
価値に対して利益が得られる
日本の小売業の根本の問題点は、営業利益率が低すぎることだと思っている。平均の営業利益率は2%程度に過ぎない。あまりにも低すぎる。
昨今の消費不況により、さらに低下傾向にある。利益が上がらないから、給与水準も上げられないし、労働環境も恵まれないし、教育も十分にできない。これでは優秀な人は集めにくい。優秀な人が多く集まらないし、教育も不十分だから、現場の人材のレベルがあがらず、売り場がお客様に喜ばれるものにならないから、売り上げも利益も増えない。
悪循環である。この悪循環を断ち切らない限り、日本の小売業は社会に対しての貢献もできないし、社会的な評価も高まらない。
利益は企業の生み出す価値に対して得られるものである。価値を生まなければ、利益は上がらない。価値は時代とともに変化する。かつての高度成長期はモノを買いたい人が増大していったが、モノを売っている売り場が少なかった。一般大衆が経済的に豊かになり需要が拡大したのに、供給の場としての小売業の売り場が少なく、売り場があることに価値があった。
パパママストア中心の小売業から、1960年代辺りから近代的組織的小売業が拡大していった。当時の小売業は出店すれば、ほとんどの店舗が大成功し、売り場に商品を並べておけば何でも売れた。安ければ、飛ぶように売れた。売り上げも伸びたし、利益も十分に上がった。
売り場を作って、商品を並べ、販売するのが小売業の価値であった。お客様の旺盛な需要に合わせて、メーカーが大量生産した商品を販売する売り場が少なかった。商品を並べる売り場があること、その販売をオペレーションすることに価値があり、その価値に対して利益が得られたのである。
変わった需給バランス
高度成長期は過去のものとなり、社会は成熟期になっていった。現在はモノ余りの時代だ。お客様はモノを既に十分に持っているし、お腹も一杯である。需要は減退している。
一方、小売業は出店を続け、売り場面積は十分にあるようになった。過剰とも言える状況である。モノは十分に持っているし、売り場は余っている。それまでの価値だった「売り場がある」という重みは少なくなった。
売り場がある以外の価値がなければ、利益は上がらない。需要が減退し、供給は増加し、需要と供給のバランスが変わったのに、小売業は時代変化に対応できずに今までと同じ商売の仕方をしている。今の小売業の業績悪化は当然の結果なのである。
このままでは小売業は営業利益は上がらない。消費財メーカーも卸も利益が上がらない。お客様の需要を拡大する必要がある。お客様はモノを買わない訳ではない。欲しくなるような商品がないから、買いたくなるような売り場になっていないから買わないのだ。
需要を掘り起こさなくてはならない。お客様が買いたくなる商品は何なのか、買いたくなる価格はいくらか、買いたくなる売り方はどうなのか。何が売れるか分からない時代にお客様に買っていただける商品をどう見つけるか、売り場でその商品の良さをアピールして売り込むか、の仕組みを根本から改革する必要がある。
売れ方の変化が早いのも、現在の特徴である。思わぬモノが売れる。突然売れたり、突然売れなくなったりする。その需要の変動に素早く対応した生産、物流、販売の仕組みを作る必要がある。流通構造全体の改革をしなくてはならない。その中で小売業がどんな価値を創造するかを考えなくてはいけない時代なのである。
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成城石井相談役。1956年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、79年にイトーヨーカ堂入社。経営トップ直結の「業務改革」の主要メンバーとして構造改革に取り組む。その後、プライスウォーターハウスコンサルティングのシニアコンサルタント、財団法人流通経済研究所の研究員を経て、90年7月、流通コンサルティングを手がけるリテイルサイエンスを設立。ファーストリテイリング(ユニクロ)や良品計画の経営改革を担当する。2003年9月にドラッグイレブン代表に就任、2007年1月から成城石井社長を務め、2010年9月から現職。

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