過去何回かにわたって、統計的手法を用いて、職場や組織体の効率を上げるお話をしてきたが、こういう考え方は一般的にいうと統計的品質管理を源とするTQC(Total Quality Control)とかTQM(Total Quality Management)と呼ばれるものである。
この分野で、日本で、もしかしたら世界で、最も進んでいるとみなされている企業がトヨタ自動車である。事実、トヨタグループは日本では最も多くのデミング賞を取ったグループである。それではなぜトヨタが今大きな問題に巻き込まれているのだろうか。
私は過去5、6年、「あと数年の内にトヨタはピークを過ぎるだろう」と予想をしてきた。現在、これが現実になる可能性が出てきている。このことは青山学院の大学院で私のクオリテイ・マネジメントのクラスや私が行った企業内での多くのセミナー、またはその他の公開のセミナーなどで公言してきたことなので、これらのクラスやセミナーに参加した数多くの方々は記憶しておられる事と思う。
また、日産のゴーンさんがV字回復を指導して、日本中がゴーンさんの経営手腕を称賛していたころ、「ゴーンさんのやり方はもうじき行き詰まり、大幅な修正を迫られるであろう」と予測した事も、私のクラスやセミナーを受講した方達は覚えておられる事だろう。
その後、日産では、かの有名な「コミットメント」(必達目標)は撤回された。デミング哲学をまとめたデミング14ポイントには「数値目標による管理を止める事」というのがあるが、数値目標を強いられれば、その目標を達成するためには必ず質は犠牲にされる事になる。質を犠牲にした企業が発展することは決してない。
それでは、なぜ、私が「あと数年の内にトヨタはピークを過ぎる」と考えたのか。その理由が、今回の問題として露見してきた根源であると思われる。メディアでは、急速な規模拡大とか電子制御システムの不具合が取り上げられているが、私はその根幹にある問題を、質を中心として分析してみたい。しかし、その前に、私とトヨタのかかわりについて少々述べておきたい。
トヨタの役員の前や工場で複数回講演
私は1965年に米国に渡り1997年に帰国するまで、その間ほとんど日本との関係はなかったのだが、1993年にデミング先生が亡くなられた時、日科技連(日本科学技術連盟)が品質管理誌でデミング追悼号を出版し私が寄稿したのが唯一のかかわりであった。
1997年に日本の品質管理を学ぶべく早稲田大学に客員教授として1年滞在した。その時に日本の品質管理学会に入り、品質管理誌に9回連載で米国における品質管理及び、デミング・セミナーを中心とするこの方面の活動を紹介する小論文を書いた。それがトヨタの当時の高橋朗副社長の関心を引き、トヨタで講演する事になった。それから静岡県の三ケ日にある研修所でトヨタ12社の役員に対して、3回講演をし、田原工場でも講演し、98年11月には名古屋の国際会議場センチュリーホールで行われた第33回オールトヨタTQMマネジメント大会で講演をした。
その時、トヨタ元会長の豊田章一郎氏と食事をする機会を得た。このほかにも2、3回トヨタグループには講演やセミナーを行った。その後もこの分野の人々との交流からトヨタに関する諸々の情報が入って来た。現在のこの一文はそういう情報に基づいて、書かれている。
トヨタのTQM活動はほとんど工場内だけである
トヨタはQCサークル活動をはじめとしたTQM(Total Quality Management)が最も盛んな企業の一つで、品質改善を中心とした小集団活動はすべての工場で行われているようである。しかしながら、それはあくまで工場の製造部門が主で、間接部門ではあまり浸透せず、工場を出てからはほとんど行われていないのが実情のようだ。
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