前回までのあらすじ
老舗 大日本鉄鋼の3人だけの部署、第三企画室は新会社オルタナティブ・ゼロとして独立した。旭山隆児(あさひやまりゅうじ)は社長、風間麻美(かざまあさみ)は第三企画室室長、楠原弘毅(くすはらこうき)は次長だ。ギター工房に目をつけた楠原は旭山に見直しを迫られる。
「あ、ちょうどいいところに来た。麻美さん、これ見てよ」
ガレージの中では職人の津久井さんが、作ったものをみんなに見せびらかしているところだった。
ガレージ村ではよく見かける風景だ。
津久井さんが何か新しい部品を作る度に、みんなで集まって「鑑賞会」をやるのだ。
「ところで、外の看板どうしたんですか」
久しぶりに日曜にオートバイで出かけたガレージ村に、いつのまにか「ガレージ・ファクトリー」という立派なロゴのついた看板がかかっていた。
「お、やっぱり気がつきましたね」
してやったりの表情がみなに浮かんだのがわかる。
「いいでしょ」
「堂本さんのブログを見てやって来たレディースがいてさ。ハーレーのタンクにすごい芸術的なイラストが描かれているんだ。サイケデリックなやつ」
「サイケデリック?」
「そうか麻美ちゃん、サイケデリックを知らないのか」
がっかりしているようでいて、自分がよけいに知っていることをうれしがっているような顔。わたしが知らない昔のことを話すときのいつもの堂本さんの表情だ。
「サイケデリックというのは、1960年代後半に流行したアートの様式なんだけどさ。派手な色がいっぱいシマシマになっていて、形がぐにゅって曲がっていたりするやつ」
「???」
「ビートルズ、知ってるよね」
「もちろん」
「じゃあ、サージャント・ペッパーズとかマジカル・ミステリー・ツアーの表紙みたいな感じっていえばわかるかな」
「それなら大体わかります」
ちゃんとはわからないのだけど、このあたりの返事の仕方が落としどころなのだ。いつまでもわからない顔をしていると、説明は永遠に続く。オジサンたちはみんないい人なんだけど、ごめん、親切はときどきひどくメンドクサイ。
わからない部分はあとで調べればいい。
そう思ってから、ふと、何でもネットで調べる弘毅君のことを思った。あまり人のことは言えない。
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