「第三企画室、出動す 〜ボスはテスタ・ロッサ」

episode:47
「売っていないものが欲しい、思い通りのものが欲しい。」

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2010年3月9日(火)

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前回までのあらすじ

老舗 大日本鉄鋼の3人だけの部署、第三企画室は新会社オルタナティブ・ゼロとして独立した。旭山隆児(あさひやまりゅうじ)は社長、風間麻美(かざまあさみ)は第三企画室室長、楠原弘毅(くすはらこうき)は次長だ。ギター工房に目をつけた楠原は旭山に見直しを迫られる。

「あ、ちょうどいいところに来た。麻美さん、これ見てよ」

 ガレージの中では職人の津久井さんが、作ったものをみんなに見せびらかしているところだった。

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 ガレージ村ではよく見かける風景だ。

 津久井さんが何か新しい部品を作る度に、みんなで集まって「鑑賞会」をやるのだ。

「ところで、外の看板どうしたんですか」

 久しぶりに日曜にオートバイで出かけたガレージ村に、いつのまにか「ガレージ・ファクトリー」という立派なロゴのついた看板がかかっていた。

「お、やっぱり気がつきましたね」

 してやったりの表情がみなに浮かんだのがわかる。

「いいでしょ」

「堂本さんのブログを見てやって来たレディースがいてさ。ハーレーのタンクにすごい芸術的なイラストが描かれているんだ。サイケデリックなやつ」

「サイケデリック?」

「そうか麻美ちゃん、サイケデリックを知らないのか」

 がっかりしているようでいて、自分がよけいに知っていることをうれしがっているような顔。わたしが知らない昔のことを話すときのいつもの堂本さんの表情だ。

「サイケデリックというのは、1960年代後半に流行したアートの様式なんだけどさ。派手な色がいっぱいシマシマになっていて、形がぐにゅって曲がっていたりするやつ」

「???」

「ビートルズ、知ってるよね」

「もちろん」

「じゃあ、サージャント・ペッパーズとかマジカル・ミステリー・ツアーの表紙みたいな感じっていえばわかるかな」

「それなら大体わかります」

 ちゃんとはわからないのだけど、このあたりの返事の仕方が落としどころなのだ。いつまでもわからない顔をしていると、説明は永遠に続く。オジサンたちはみんないい人なんだけど、ごめん、親切はときどきひどくメンドクサイ。

 わからない部分はあとで調べればいい。

 そう思ってから、ふと、何でもネットで調べる弘毅君のことを思った。あまり人のことは言えない。

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著者プロフィール

阿川 大樹(あがわ・たいじゅ)

小説家、コラムニスト。1954年、東京生まれ。日本電気(NEC)およびアスキーで半導体LSI開発エンジニアおよび半導体部門事業責任者。1991年より、米国シリコンバレーの半導体ベンチャー企業の設立に参加。1997年、小説家に転身。1999年、サントリーミステリー大賞優秀作品賞。2005年、ダイヤモンド経済小説大賞優秀賞。著書にはシリコンバレーで起業する日本人技術者と巨大資本の闘いを描いた『覇権の標的』、最新刊は『フェイク・ゲーム』。横浜市の元特殊飲食店街・黄金町に仕事場「黄金町ストーリースタジオ」を構え、地域の人と共に、町の再生プロジェクトにも参加している。日本推理作家協会会員。



このコラムについて

第三企画室、出動す 〜ボスはテスタ・ロッサ

「ものづくり」の栄光にも、金融のゲームにも、なりゆきまかせの楽観論にも頼らずに、日本企業の未来を拓く。隣が何をしているのかさえ分からない大組織どうしの思惑が絡み合う巨大な経済の中で、大きな目的を与えられた個人たちに何ができるのか。製鉄会社「大日本鉄鋼」に極秘裏に組織された「第三企画室」が、走り出す。

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