これまでのあらすじ
日野原工業の社長となった団達也は、社名を「ヒノハラ」に変えて新たな第一歩を踏み出した。
達也は、会社の経営に欠かせない人材であるエンジニアの金子順平を取り戻すために、上海にいるUEPC社のリンダに助けを求め、無事、金子はヒノハラに戻ってきた。
リンダは金子を達也のもとに返すにあたって、交換条件を出していた。それは、1年以内に、金子の力によって世界が驚く新製品を開発し、真っ先に上海で発表すること、ビジネスパートナーはリンダの会社である『李団有限公司』にすることだった。
ヒノハラは日豊自動車の購買部長に言われるまま、巨額の遊休設備を建設し、滞留在庫の山を築いてしまっていた。これが利益とキャッシュフローを圧迫し、経営は危機に陥っていた。
ヒノハラ役員会議室
金子の夢のような話に真理らは釘付けになった。しかし達也は冷静に耳を傾けていた。電気自動車がガソリン自動車に取って代わるには、リチウム電池内の抵抗値を減らして、電圧と電流値を大幅に改善しなくてはならない。そして、そのカギは電池の負極材料と正極材料が握っている。
「高性能リチウム電池は、世界中の会社が血眼になって開発しているんですよね。それに開発資金だって半端じゃない。金子さんには自信があるんですか」
達也は珍しく慎重になった。留置場から解放されたばかりの金子が、ハイになっているだけなのかもしれない、と思えからだ。だが、金子は自信にたっぷりにこう言い放った。
「誰も試みたことのない方法で、高性能リチウム電池をつくることができそうなんです。半年で完成させてみせます」
達也の自宅

会議を終えて、達也と真理は豊橋20時43分発のひかりで帰京した。2人は毎日ひかりで東京の自宅からヒノハラに通勤している。座席に座るなり真理は眠りについた。だが、達也はこれからのことで頭がいっぱいだった。あの慎重な金子が電気自動車用のリチウム電池を作ってみせる、と断言した。日豊自動車との取引が先細ったいま、ヒノハラの命運を金子に託すしかない。
達也が千駄木の自宅に戻った時、すでに23時をすぎていた。達也は上着を脱いで椅子に腰を下ろすと、ポケットから携帯を取り出して短縮ボタンを押した。
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