「「オトコらしくない」から、うまくいく」

第9回 「自分の仕事を1人でも多くの人に届けたい」と思わないの?

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2010年3月23日(火)

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 世界を相手に、ナンバーワンを目指す、のに比べれば、「身の丈」に応じて「一隅」を照らす、というのは、ちょっと心が楽になるというか、上手な生き方のように思えます。下手に名前が売れて、誤解されたりやっかまれたりするのも嫌だし。最近のオトコはちいせえ……とか他の人に言われても、結局、自分で決めればいいことだよね。

 でも、「分かる人にだけ分かる」という生き方を志向するようになると、「分からない」と言ってくれる人を遠ざけてしまうリスクが出てくるんじゃない? と、厳しくこのおふたかたは突っ込みます。そういえば伝教大師最澄が述べたという「一隅を照らす」の意味は、「小さいところ、身の回りから始めること」であって、「そこだけ照らすこと」ではないらしい。「一隅を守り、千里を照らす」という読み方もあるそうです。(編集Y)

清野 前回、「佐藤可士和」ブランドを世に広めるために欠かせなかった、メディアとの付き合い方をうかがいました。

 その流れの続きなのですが、ネット社会の今、「業界内有名人」が「社会的なアイコン」に飛躍すると、それに伴ってストレス、リスクも増大するのではないか、と心配をするのですが。

(写真:樋口とし)
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佐藤 匿名性が失われる、ということでしょうか。

清野 はい。匿名性以前に、“普通の人”性と言いましょうか。たとえばその辺のレストランにちょっと食事に行っても、人の目が注がれて落ち着かない、というような。そういうのはストレスになりませんか。

佐藤 いえ、レストランで声をかけられるほど知られてはいないので、全然大丈夫です。

清野 私だったら「あっ、佐藤可士和さんがいる!」って、すぐ気付くと思いますけど。悦子さんだって、すごく目立ちます。

佐藤 そう言っていただけるのはありがたいことではありますが、特に佐藤の場合、作品では知っていてくださっているけれども、本人の顔は知らない、という方も多いので、どこかに行って注目を集めるということは、ほとんどありません。

清野 そんなものでしょうか。

普通の社会人としてあり得ない振る舞いをしなければ

佐藤 それに何と言うか、面が割れているからちゃんとしなきゃいけない、という以前に、いつでもどこでも、普通の社会人としてあり得ない振る舞いはしないように気をつけているので、その辺りに過剰に神経質になったりはしないのですが。

清野 では、別に注目されていないのに、自分で一方的に意識してしまったり、ということもないですか。

佐藤 それもないです。あ、でも、最近、佐藤が遭遇した、ちょっとしたストレスを思い出しました。

清野 おっ、何でしょう。

佐藤 佐藤が海外出張に行った時の飛行機の中の出来事なのですが、その便のビジネスクラスというのは、常連の方が多いそうなんですね。

清野 可士和さんは常連ではなかったのですか。

佐藤 その時は佐藤にとって初めての目的地でした。それで食事の時に、隣の明らかに常連と思われる方には、客室乗務員の方が心得たように和食を運んでいたそうなんですが、佐藤には洋食が出されたとのことで。それも、唐突に「洋食でいいですか」と言われた後、「?」と思いつつ、「はあ」と言っているうちに・・・・・・ということだったそうなんです。きっと経費削減もあって、洋食と和食、ぎりぎりしか積んでいない、という事情があるのでしょうけれど。

清野 それって、今、話題になっている、かつてのナショナル・フラッグ・キャリアの話ですか。

佐藤 いえ、それはご想像におまかせします。

清野 うーむ。

佐藤 それでも、行きはまだ聞いてくれただけよくて、帰りは何の問い合わせも断りもなく、いきなり洋食が差し出されたそうです。さらに、隣の常連っぽい方には、和食が運ばれ、しかもすでに機内の他の方の大半が食べ始めているという状態だったとか。私は同席していないので、ちょっと本人の言い分に偏っているかもしれませんが、それでも、明らかに値踏みされたことがよく分かって、食事がどうのこうのというより、露骨にお客をランク分けしているその態度が、やはり嫌な感じだったと話していました。

清野 たかが食事、されど食事で、飛行機のサービスにおいて、食事の出し方は大変、重要なことですよね。

佐藤 佐藤も44歳で決して若くはないのですが(笑)、もう、こっちの若い方に洋食を出しておけばいい、と先方が思ったのが見え見えだったそうです。

清野 少し前、ある航空会社の欧州便でエコノミークラスに乗った時、客室乗務員の方が免税品を売りながら、「さっき、あのお客さんにこう言われたからぁ、こう言い返したんです。アタシ、間違ってないですよねぇ」と、同僚に文句を言っている声が、頭から降ってきたことがあります。これが、かつてはマナーで売っていた某エアラインか・・・・・・と、びっくりしたことが私の記憶には新しいです。

佐藤 それで、ほかにも納得できない対応があったので、クレームというほどではないのですが、「『洋食にしてください』というのはどういう基準で言っているんですか?」ぐらいは、降りる時に聞いてみよう、と思ったそうです。でも、トイレに行った時に、チーフパーサーみたいな方から「あ、佐藤可士和さま。ご活躍はいつも拝見しております」というような、ご丁寧な挨拶をされて、そうなると文句は飲み込まざるを得ず、「すごい中途半端で、全然すっきりしないんだけど」と、帰ってきて、ちょっと愚痴を言っていました。

清野 その辺りが、いわゆる有名税ですかね。

佐藤 というほどのこともない、小さな出来事ではありますが、相手を見て態度を変えるようなことを、自分たちは絶対してはダメだ、といういい教訓になりました。

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著者プロフィール

清野 由美(きよの・ゆみ)

ジャーナリスト。
1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。国内外の都市開発、デザイン、トレンド、ライフスタイルを取材する一方で、時代の先端を行く各界の人物記事に力を注ぐ。『アエラ』『朝日新聞』『日本経済新聞』『日経ベンチャー(現・日経トップリーダー)』などで執筆。著書に『セーラが町にやってきた』(プレジデント社/日経ビジネス人文庫)、『ほんものの日本人』(弊社刊)、『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(集英社新書・隈研吾氏と共著)『「オトコらしくない」から、うまくいく』(佐藤悦子氏と共著・日本経済新聞出版社)など。



このコラムについて

「オトコらしくない」から、うまくいく

 自分の仕事の枠や殻を越える、破るのは、だれにとっても難しい。今までの働き方じゃダメなことは分かっても、新しい方法を試すには勇気以上の何かが必要だ。それにはまず、今までの自分を外から眺めて、考えること、ではないだろうか。でもこれだって相当難しい。毎日鏡をのぞき込んでもオトコたちは「ヒゲばかり見て、顔のシワを見ない」のだ。

 この連載では、従来の「まっとうな、普通な、誰もが認めやすい」、いわば「オトコらしい」働き方をあえて外から見直して、殻を破った、破らせた人々のお話を、時には母、時には妹、そして時にはアニキの凄腕インタビュアー、清野由美さんにざっくばらんに紹介していただく。

 まず登場するのは、ユニクロを手がけたことで知られるアートディレクター、佐藤可士和氏…ではなくて、彼のプロデュースを担当する、佐藤悦子さん。え、なぜご本人ではないのかって? やっぱりオトコって、可士和さんといえども、なかなかすぐには鏡が見られないのですよ…(編集Y)

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