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episode:49
「いつまでも「将来性のある金の卵」を温めていられれば、心はどんなに楽だろう。」

  • 阿川 大樹

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2010年4月6日(火)

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前回までのあらすじ

老舗 大日本鉄鋼の3人だけの部署、第三企画室は新会社オルタナティブ・ゼロとして独立した。旭山隆児(あさひやまりゅうじ)は社長、風間麻美(かざまあさみ)は第三企画室室長、楠原弘毅(くすはらこうき)は次長だ。風間のプロジェクトであるガレージ村は新しい局面を迎えていた。

【登場人物の紹介はepisode:zeroをどうぞ】

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 着々と下準備は進んでいた。

 どこかで一気に火をつけたい。そのきっかけを掴むことができずにいたのだった。

「パルス充電器」をとっかかりに、ついに踏み出せそうだ。

 百聞は一見にしかず。

 「パルス充電器」販売の本当の目的は、それを売って儲けることじゃない。ガレージ村を気に入ってくれる限られた数のファンを作ること。

 自分の欲しい部品をプロの職人に作ってもらえることの素晴らしさは、ガレージ村に来て見てくれればすぐにわかる。

 いつのまにか、出入りするメンバーは10人以上になっている。来た人たちは感激して異口同音に声を挙げる。

 ここでは、いつも誰かがバイクの整備をしている。

 きれいにレストアの終わったバイクも、恐竜の骨格みたいにバラバラになったバイクもある。

 粗末だけれど雨風を凌いでくれる建屋。壁にきれいに並んで架けられた美しい工具たち。黒くなったウエスから立ち上る鉱油の匂い。ちょっとした図面を書き起こすための製図台。定規とコンパス。いつか使われるのを待っている、どこかから取り外された大小の部品たち。

 切り株をテーブルに、コーヒーを飲んだりタバコを吸ったりしながら、いつまでもつづくバイク談義。

 ガレージ村がターゲットにしている人たちなら、それらすべてのものを気に入ってくれるはずだ。

 いつのまにか、わたしもスウィーツのシナモンやバニラの香りより、鉱物油の匂いを心地よく思うようになっていた。

「あんたそれじゃ嫁に行き遅れるよ」

 母の口癖を頭の中で真似てみては、ハナから結婚するつもりがない自分を確認する。わたしを父の形見のバイクに乗せたのはあなたなんだからね。

 さあ、ここへどうやって人々を連れてくるのか。その突破口を持つことができずに躊躇していたのだ。

 何かを売るのはしばしばそれを作るより難しい。商品があるのは、ビジネスの出発点に過ぎない。

 とにかくスタートを切った。

 準備万端とはいえない。でも、準備なんていくらしたところで終わりがない。お手本もないし基準もない。新しい事業には、ここまでやれば準備が終わる、という境目がない。やるべきことは、それはもう無限にある。

 だけど、走り始めてしまったらもう止まることはできない。

 お客さんがついて、こちらの準備不足でそのお客さんががっかりしたり怒ったりしたら、それを消し去ることはできないし、ネットのクチコミを積極的に使おうと考えている以上、クチコミで悪い噂が広まってしまったらリカバリーは難しくなる。

 恐かった。

 いつまでも「将来性のある金の卵」を温めていられれば、心はどんなに楽だろう。少なくとも何もしないうちは、希望を抱いていることができるのだ。

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