これまでのあらすじ
日野原工業の社長となった団達也は、社名を「ヒノハラ」に変えて新たな第一歩を踏み出した。
しかし、ヒノハラは日豊自動車の購買部長に言われるまま、巨額の遊休設備を建設し、滞留在庫の山を築いてしまっていた。資金繰りも厳しく、今月は 1億円不足するという状況に追い込まれていた。
達也は経理部長の細谷真理を連れて、恩師である宇佐見秀夫の別荘に行き、ヒノハラの新規事業について意見を求めた。
宇佐見は真理に向かって、企業にとってお金よりも大事な経営資源は何かを問うた。黙っている真理に宇佐見が言った答えは「人材」という言葉だった。
「いらっしゃい。真理ちゃん久しぶりだね」
伊豆からの帰り、真理は達也と根津にあるすし屋ののれんをくぐった。いつものことだが、この店には、世の中の不景気を忘れてしまうほどの活気にあふれていた。店には、大将のほかに2人の若い職人がすしを握っていた。また一人増えたようだ。真理と達也は、大将の前のカウンターに腰を下ろした。
「ああ疲れた」
真理は温かいお茶を一口飲んでつぶやいた。
「宇佐見のオヤジと会うと、なぜか緊張するな」
達也も疲れた声で言った。
「先生とは長い付き合いなんでしょ。それでも、緊張するの?」
真理は不思議そうな顔で聞いた。
「きみがどんな反応をするかって、心配でならなかったんだ」
「宇佐見のオヤジは気難しいところがあってね。見込んだ相手とはとことん付き合ってくれる。でも、気に入らないと、容赦なく辛辣な言葉を浴びせて追い払うんだ。だから気が気じゃなかった」
達也はガラスのコップにビールを注いだ。
「それで私は気に入られたのかしら?」
「たぶんね」
達也が答えると、真理はうれしそうな笑みを浮かべた。
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