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“イチロー”を評価しない、会社の不条理

「毎日、同じことを繰り返す」職人は認めてもらえないのか?

2010年4月8日(木)

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 今回は、現代の組織では評価されることが難しい、続ける力と繰り返す力、について考えてみようと思う。

 先日、大手電気機器メーカーのA氏から1通のメールが届いた。
 「皆さん、とうとう会社を去ることになりました。これで生産ラインの平均年齢がグっと下がり、生産ラインに携わる人数も減ってしまいます。うちの会社の技術は工場で生まれました。色々な機能をオートメーション化できたのも、工場で働く人たちがいたからです。でも、目に見えない力や、数字に反映されない労働力は評価されません。それに対してどうすることもできない自分の力のなさに、辟易しています」

 A氏と出会ったのは今からちょうど1年前。リーマンショックから半年が経ち、派遣ギリが世間で問題になっていた頃だった。当時、労働組合の委員長を務めていたA氏は、次のような“お家事情”を話してくれた。

 「うちの会社に派遣社員はいないので、世の中で問題になっているようなことは何もありません。ただ、数年前に成果主義が取り入れられ、生産ラインの40代以上の人たちの給料が、多い人で月20万くらい下がってしまった。それまでは完全な年功序列で、職種による賃金差は全くなし。生産ラインの工場長レベルは、その他の部署の部長職と同等の賃金でした。新しい賃金体系自体は、総合的に判断すると決して間違っていなかったと思っています。でも、本当にこれでいいのかな、という気持ちがあるんですよね」

職人たちは社内試験を受けたがらなかった

 A氏の話によると彼の会社で取り入れた成果主義は、多方面から評価するものになっており、生産ラインの人でも社内試験を受けて他部署との仕事を兼務すれば、賃金を維持できる設定になっていたそうだ。

 そこでA氏は彼らに試験を受けるよう勧めた。ところが、大半の“職人”さんたちは、「俺らはいいよ。今の仕事以外はできない」と試験を受けることを拒否。「自分たちの職場は工場。ここでずっとやってきた」と、どんなにA氏が勧めても受けようとしなかった。

 新しい賃金体系を導入するまで社内では、「なんで毎日同じ仕事ばかりしている人たちの給料が、自分たちよりも多いんだ」と不満を唱える若い社員や、「海外の工場ではもっと安いコストでできる」と賃金の高さへの批判も多かったという。かつては工場で生まれていた新しい技術も、理系の高度な専門知識をもった人たちを集めた“開発室”という部署で扱われるようになり、生産ラインの人たちの仕事は、いつしか「機械で補えない部分をまかなうだけ」になっていたそうだ。

 そんな社内事情もあってか、賃金が下がる生産ラインの人たちに対して、「社内試験というチャンスもあるのに、それを受けないんだから仕方がないじゃないか」と、冷ややかに見る社員も少なくなかった。

 営業職だったA氏が入社した頃は、生産ラインの人たちとの交流も多く、はんだ付け一つにこだわり続ける職人の熱さや、実直なまでにものづくりに取り組む彼らの姿勢から学ぶことも多かったそうだ。それだけに、彼らの賃金が下がることに対して、言葉に上手くできない、やるせなさを感じたという。

 長引く不況と円高の影響はA氏の会社にも大きな影を落とした。大幅な“人員整理”が急速に進められたのだ。

 ターゲットは40歳以上の生産ラインの人たちだ。中学や高校を出て工場の中だけで働いてきた人たちを、それまでと全く関係のない部署に異動させたり、正面から早期退職を迫ったりと、会社は彼らが「辞めます」と言わざるを得ない状況に追いやっていったとA氏は言う。

コメント103件コメント/レビュー

毎日同じことを繰り返す、のフレーズ理解が読者により異なるため多少の議論を呼んでいるようだが、筆者の意図は理解できる。今の時代の評価軸(数値、知識、昇進試験結果、云々)へのアンチテーゼだろう。毎日同じことを・・・のフレーズは、過去の成功事例の中には、泥臭い現場密着の視点から初めて気づかされる発想も数多くあったことを改めて気づかせてくれるという点において十分に意味がある。(2010/04/20)

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「“イチロー”を評価しない、会社の不条理」の著者

河合 薫

河合 薫(かわい・かおる)

健康社会学者(Ph.D.)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数は600人に迫る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

毎日同じことを繰り返す、のフレーズ理解が読者により異なるため多少の議論を呼んでいるようだが、筆者の意図は理解できる。今の時代の評価軸(数値、知識、昇進試験結果、云々)へのアンチテーゼだろう。毎日同じことを・・・のフレーズは、過去の成功事例の中には、泥臭い現場密着の視点から初めて気づかされる発想も数多くあったことを改めて気づかせてくれるという点において十分に意味がある。(2010/04/20)

”毎日同じ事をする”って、どんな事か知らない連中があまりに多い事に、強い失望感を覚えました。  単純作業であればある程人は飽き、そこで起こる心理的作用は、「サボりたい」もしくは「どうしたらより質を高められるか」「効率的にこなせるか」を考える等ですが、後者の場合、それはまさに”改善”です。つまり、一見同じ様な事を繰り返している人でも、長く続けている場合、そこには常に改善に向けた活動があるのです。それを「知識」ばかりが先行する人は、その様な「人間の本質」に思いが至らず、もっともらしい言葉で自らを正当化するのです。その様な”知識人”に価値は無い、知識に経験が伴った”知恵”を持った人々こそが、現代の日本には必要です。一見仕事の出来そうなロジカルに仕事をこなす”知識”先行の人間が評価され、”知恵の無い”経営者や幹部になる現状は、実は低能な人間がイニシアチブを握っている状況と同じです。 知識ばかりの人間は、もう要りません。(2010/04/14)

 難しい本でなく小学生でも読むような本にも同じような内容が書かれていますよね。「大事なもの(こと)は目に見えないんだよ」 中途半端な欧米の成果主義を導入した会社ほどリーマンショック以降揺れ動きが激しいように見えます。 目に見えない部分(数字で表せない部分)をどう活かしているかで今後5~10年で大きく変わるような気がします。 ところで、永年勤続表彰も以前は普通にありましたが、世間一般ではどうでしょうか?私のいる会社でも約10年前に制度がなくなりました。その頃からですかね。**らしさが薄れてきたのは。(2010/04/13)

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三品 和広 神戸大学教授