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リストラ犠牲者を拡大させる“同情”という凶器

企業は「転籍」や「希望退職」を悪用するな!

2010年5月27日(木)

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 「あの会社に転籍してもらうことになった」

 会社でこうした内示を受けた時、あなたはどう思うだろうか?

 「それって要するにリストラ(解雇)ってことでしょ? 今の会社では用無しだから、別会社で後の人生よろしくなんて、はっきり言ってショックだよ」とマイナスに受け止める。

 「会社を移ることに全く抵抗がないと言ったらウソになるけど、この年齢で新しい仕事に就けるのはある意味、自分にとって良いことなのかもしれないなぁ。会社の期待に応えられるよう、転籍先の発展に最後の力を振り絞るよ」とプラスに受け取る。

 今の世の中では恐らく、前者のマイナス派が多いだろう。

 何せここ数年、希望退職を募集した裏で、「今が辞め時では?」などと従業員に退職を執拗に迫り、それでも応じない従業員は転籍させるといった形で、関連会社への転籍を実質的なリストラや解雇の手段として使ってきた企業が存在するのだから。

 例えば、NTTグループのNTT東日本とNTT西日本が2002年度に実施した“構造改革”で関連会社を含め約11万人にも及ぶ大規模なリストラを行った際も、転籍を利用した人件費の削減を実行した。

 2社がそれぞれアウトソーシングを手がける関連会社を新設し、51歳以上の社員を一度退職させて,15%~30%の賃金カットを前提に新会社で再雇用し、約400億円もの人件費を削減したという。

 いずれにしても、世間には「転籍=マイナス」といったステレオタイプな考えが広がっている。だが、このステレオタイプな考えが、プラスの“転籍”までもマイナスなものに変えていたとしたら、どうだろうか。

 今回は、“ステレオタイプな考えが生み出す悲劇”について、考えてみる。

喜んで転籍を受け入れた男性が心変わりした理由

 数年前に某ビジネス雑誌で連載をしていた時、転籍を命じられた男性を取材したことがある。当時、彼は48歳。勤務先の大手運送会社で、「子会社の業務拡大」を名目に転籍を命じられた。

 彼と同じように転籍を命じられた人は総勢20人。50代は2人、30代は1人で、それ以外はすべて40代。平均年齢は47歳とかなり高かった。

 そもそも「転籍」は、新たな会社の下で、新たな労働条件に基づいて働くことである。出向元の会社との雇用契約を維持したまま別の会社の業務に従事する出向とは、明らかに異なる。民法の規定(第625条第1項)では、本人の個別の同意がない限り、転籍は行えないことになっている。

 この男性のケースでは、会社側から「転籍することで賃金は2割ほど下がるが、差額は転籍に伴う退職金の支給で賄える」との説明を受けた。

 彼は散々考えた末、「残りのキャリア人生を先行きが見えている状況で過ごすよりも、新しいところで自分の最後の力を試せるチャンスかもしれない」と思い、辞令を受けた。

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「リストラ犠牲者を拡大させる“同情”という凶器」の著者

河合 薫

河合 薫(かわい・かおる)

健康社会学者(Ph.D.)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数は600人に迫る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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