リーダーに求められるメッセージ力(発信力)とは何か。そのヒントを、『空気は読まない』の著者で患者と地域に密着した医療を続ける鎌田實氏と、『伝える本。――受け手を動かす言葉の技術。』の著者で消費者の記憶に残る様々なキャンペーン広告を創り出してきた山本高史氏という2人の経験や見解を踏まえた対談から探っていく。
山本 高史(以下、山本) ベネフィットというとドライなイメージがありますが、僕の考えるベネフィットというのは、単純な利害関係ではありません。例えば、相手の言うことを否定する場合でも「それは違うな」というのと、「お前の言うことはすごく分かるけど、それは違うな」というのとでは全然、受け取られ方は違います。自分の意見を聞いてもらって、理解してもらったうえで否定されるのは、ある自分に対するある判断であって、ある思いやりや想像力の中で「それはちょっと違うな」と言われていることが認識できること、それ自体が受け手にとってはベネフィットがあるということだと思います。
広告におけるベネフィットというのは、差別化であり、ほかの商品に比して何がプラスされているかをドライに考えることですが、ただ基本的に広告というマスコミュニケーションも、日常の1対1のコミュニケーションも、1つの脳と1つの脳のコミュニケーションであると考えると、受け手の側がちょっとうれしくなることを言ってあげるということは同じことだと考えています。
「暖かい医療をやろうよ、とだけ言った」(鎌田)
鎌田 實(以下、鎌田) 金銭も大切だけれども、もっと幸せ感を感じるベネフィットが、21世紀には大切なんじゃないかと思います。算盤だけじゃなく、算盤を超えたところにあるベネフィットを、政治家や経済人が提供しないと、有権者や消費者の行動変容は起きないんじゃないかと思いますね。だから、20世紀型のお金で換算できるベネフィットではない、新しいベネフィットが必要なんじゃないかと思いますね。

諏訪中央病院のことで言えば、僕が院長になった頃は、4億円の累積赤字がありました。暖かい医療がしたいと同時に、お金を儲けなくちゃいけない。しかし、公立病院で働くお医者さんたちは、気難しい人が多いですから、「金を稼ごう」と言っても夢中で働いてはくれなかったでしょう。
「暖かい医療をやろうよ」と言ったら、お医者さんたちは夢中になって働いてくれました。そのうち、地域の人は褒めてくれるし、マスコミも注目してくれるようになりました。今は医者不足ですが、諏訪中央病院は、研修医たちの憧れの病院になり、倍率も高くなりました。当院の研修医は不合格でも、ほかの病院での研修が終わってから、後期研修という形で18人も集まってくる。どの病院も喉から手が出るほど欲しがっている若い医師たちが集まって来る。お金では解決できないものが諏訪中央病院で手に入れることができるからだと思います。
暖かい医療をやっているだけですよ。赤字解消のために要らない薬を投薬して利益を出そうとしたりせず、暖かい医療に夢中で取り組んできたら、より大きなベネフィットが得られたわけです。
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