エルステッドインターナショナル(神奈川県川崎市)の社長である永守知博は、人生で2度、就職活動をしている。最初は明治大学大学院の卒業に合わせて、もう1回は富士通で2年勤めた後に留学した米サフォーク大学で、MBA(経営学修士)を修了するタイミングである。
2回目の就職活動は、アメリカ滞在中から取り組んでいた。日本に帰国したら一刻も早く仕事を始めるためだ。MBA修了予定の約2カ月前、2005年5月のことである。永守は講義が休みになる1週間を利用して日本に一時帰国し、事前にメールで面接の約束を取り付けていた会社を次々と訪れた。
富士通という大会社を経験し、アメリカで経営学について勉強した永守が次に目指したのは、「零細企業」だった。どこに属せば、経営を学べるのか? 頭にあるのはそればかりだった。

会社の規模が小さければ、企画から営業、経理まで経営全体を見渡すことができる。社長と直に接する機会が多いのも魅力だった。「ベンチャー企業のサクセスストーリーに、“カリスマ経営者”についていく敏腕のナンバー2の話がよくあるじゃないですか。まずは、そういうポジションを目指そうと思っていたんです」(永守)。その先には、経営者が身を引いた後に自分が会社を受け継ぎ、経営者になれるかもしれないという密かな思惑もあった。
経営を学ぶ場なんて、そうそうはない
もちろん、「製造業を目指す」気持ちは全く変わっていなかった。ところが、なかなか思うような会社に巡り合えない。2005年はまだ製造業の景気が良かった時代である。人材紹介サイトに登録すれば、名立たる大企業からスカウトの話はたくさん届いた。しかし、それらはどれもエンジニアとしての採用だった。「要するに、MBAなんてどうでもよく、英語のできるエンジニアが欲しいわけですよ」という永守の予想は、恐らく当たっているだろう。しかし、それは永守が目指す道ではなかった。
そこで、インターネットを使って自分で応募する企業を探すことにした。実は、この検索作業は永守の特技でもある。何か特別なテクニックを編み出したわけではないが、富士通時代など、目的の情報をいとも簡単に引き出す姿に、周りの人間は「なんでそんなの、すぐに見つけ出せるの!?」と驚いていたという。中には、「富士通一だ」との呼び声も・・・。
検索条件は、零細の製造業。その中でも「機械」系ではなく、「材料」系を扱う企業に興味があった。さらに、「新規参入」のところを探す。新規参入で材料を扱う零細企業は、当たれば大化けするかもしれない。経営を学び、会社を成長させていく実践の場としては最適だと、永守は考えたのである。
目星をつけたのは、多くが社員3〜4人ほどの零細企業だった。採用面接では、いきなり社長が出てくる。しかも、「創立以来、初めて面接をする」というところばかりだ。とはいえ、永守が調べる限りでは技術の可能性も評価されており、きちんと利益を出している会社であることは間違いない。
面接に不慣れな社長よりもよくしゃべった27歳の永守は、こんな質問もぶつけた。
「社長、10年後はこの会社をどうしたいですか?」
しかし、その答えは、予想に反したショックなものだった。
「リタイアしたい」。ほとんどの社長たちはそう答えた。まだ50代前後だというのに、会社をもっと大きくしようという気概が感じられない。永守は愕然とする。
「“カリスマ経営者”は、一体どこにいるんだ?!」
叫びたい気持ちだった。
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