「製造業の英才教育」

“ひざの突き合わせ”が自分の経営スタイルだとつかんだ

第8回 「日本電産以外に、どこで経営を学べる?」

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2010年6月9日(水)

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 エルステッドインターナショナル(神奈川県川崎市)の社長である永守知博は、人生で2度、就職活動をしている。最初は明治大学大学院の卒業に合わせて、もう1回は富士通で2年勤めた後に留学した米サフォーク大学で、MBA(経営学修士)を修了するタイミングである。

 2回目の就職活動は、アメリカ滞在中から取り組んでいた。日本に帰国したら一刻も早く仕事を始めるためだ。MBA修了予定の約2カ月前、2005年5月のことである。永守は講義が休みになる1週間を利用して日本に一時帰国し、事前にメールで面接の約束を取り付けていた会社を次々と訪れた。

 富士通という大会社を経験し、アメリカで経営学について勉強した永守が次に目指したのは、「零細企業」だった。どこに属せば、経営を学べるのか? 頭にあるのはそればかりだった。

永守知博・エルステッドインターナショナル社長。経営を学ぶために選んだ先は、父である永守重信氏が創業した日本電産のグループ会社だった(写真:大槻純一)

 会社の規模が小さければ、企画から営業、経理まで経営全体を見渡すことができる。社長と直に接する機会が多いのも魅力だった。「ベンチャー企業のサクセスストーリーに、“カリスマ経営者”についていく敏腕のナンバー2の話がよくあるじゃないですか。まずは、そういうポジションを目指そうと思っていたんです」(永守)。その先には、経営者が身を引いた後に自分が会社を受け継ぎ、経営者になれるかもしれないという密かな思惑もあった。
 

経営を学ぶ場なんて、そうそうはない

 もちろん、「製造業を目指す」気持ちは全く変わっていなかった。ところが、なかなか思うような会社に巡り合えない。2005年はまだ製造業の景気が良かった時代である。人材紹介サイトに登録すれば、名立たる大企業からスカウトの話はたくさん届いた。しかし、それらはどれもエンジニアとしての採用だった。「要するに、MBAなんてどうでもよく、英語のできるエンジニアが欲しいわけですよ」という永守の予想は、恐らく当たっているだろう。しかし、それは永守が目指す道ではなかった。

 そこで、インターネットを使って自分で応募する企業を探すことにした。実は、この検索作業は永守の特技でもある。何か特別なテクニックを編み出したわけではないが、富士通時代など、目的の情報をいとも簡単に引き出す姿に、周りの人間は「なんでそんなの、すぐに見つけ出せるの!?」と驚いていたという。中には、「富士通一だ」との呼び声も・・・。

 検索条件は、零細の製造業。その中でも「機械」系ではなく、「材料」系を扱う企業に興味があった。さらに、「新規参入」のところを探す。新規参入で材料を扱う零細企業は、当たれば大化けするかもしれない。経営を学び、会社を成長させていく実践の場としては最適だと、永守は考えたのである。

 目星をつけたのは、多くが社員3〜4人ほどの零細企業だった。採用面接では、いきなり社長が出てくる。しかも、「創立以来、初めて面接をする」というところばかりだ。とはいえ、永守が調べる限りでは技術の可能性も評価されており、きちんと利益を出している会社であることは間違いない。

 面接に不慣れな社長よりもよくしゃべった27歳の永守は、こんな質問もぶつけた。

 「社長、10年後はこの会社をどうしたいですか?」

 しかし、その答えは、予想に反したショックなものだった。

 「リタイアしたい」。ほとんどの社長たちはそう答えた。まだ50代前後だというのに、会社をもっと大きくしようという気概が感じられない。永守は愕然とする。

 「“カリスマ経営者”は、一体どこにいるんだ?!」

 叫びたい気持ちだった。

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著者プロフィール

中西 未紀(なかにし・みき)

フリーライター。1979年神奈川県生まれ。お茶の水女子大学卒業後、出版社、編集プロダクションを経て現職。日経ビジネスオンラインのほか、雑誌など各媒体にてインタビュー記事を中心に活動。

永守 知博(ながもり・ともひろ)

エルステッドインターナショナル社長。1976年2月生まれ、京都市出身。2000年に明治大学大学院理工学研究科電気電子工学専攻を卒業し、富士通に入社。2005年に米マサチューセッツ州ボストンのサフォーク大学でMBA(経営学修士)取得、帰国後は日本電産グループ各社で勤務。2009年4月に製造業向け支援サービスを手がけるエルステッドインターナショナル(神奈川県川崎市)を設立、ポータルサイト「Makers-IN(メーカーズイン)」を運営する。精密小型モーターで世界トップシェアの日本電産を創業した永守重信社長の次男である。



このコラムについて

製造業の英才教育

日本の製造業が暗い。新興国の技術力の伸長は著しい。同時に、国内では後継者不足の悩みも抱える。そんな厳しい環境にあえて飛び込んでいこうとしている若き2世経営者がいる。世界トップ企業を一代で育てた父から、何を学んできたのか。普段の家庭教育に、どんな“帝王学”が潜んでいたのか。半生を通じて、日本経済を支える人材育成のヒントを探っていく。

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