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辞任なんかじゃ許されない、鳩山首相が落とした“影”

首相は一体、何に価値を置いていたのか?

2010年6月3日(木)

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 国民のみなさんが徐々に徐々に聞く耳を持たなくなってしまった……。そう言って鳩山由紀夫首相は辞意を表明した。

 もし鳩山首相が企業のトップだったら、社員たちはやる気を失い、仕事だけでなく人生にまで満足感を得られず、生きる力さえ失い、会社は崩壊している。

 国民が失ったのは“聞く耳”ではなく、もっと重たいものだったということに、鳩山首相は最後まで気付いていない。こう思わざるを得ないほど、辞任の理由の一つに挙げた米軍普天間基地の移設問題で鳩山首相が下した結論の罪は重い。

 最悪である。最後の最後で本当にがっかりした。普天間問題に関して言うなら、実は私は、「鳩山首相はやってくれるんじゃないか」とひそかに期待していた。就任当初から多くのメディアは「県外移設なんて、やれるもんならやってみな」といった報道を繰り返していたが、私は恐らく数少ない「きっとやってくれる」と信じていた一人だったと思う。

 なぜ、期待したのか? それは単純に、鳩山首相が米スタンフォード大学で博士論文を書き上げて、博士号を取得していたからだ。

今回の結論を予想させた首相の博士論文

 かなり稚拙な根拠だと思われるかもしれない。だが、博士号取得に必要なものは知力ではない。自分の限界を超えたいかなる課題に対しても、あきらめずに最後まで期限内にやり通す気力だ。

 私も博士の端くれなので、いかに気力だけが求められるかは身をもって知っている。だからどんなに苦難が伴おうとも、最初に掲げた「県外移設」という“仮説”を、あきらめることなく最後まで追求してくれると信じたのだ。

 だが、その期待は見事に裏切られた。しかも、いざこういう結末を迎えてみると、“鳩山博士”の博士論文には、現行案にほぼ戻ってしまった今回の結果をにおわせるものがあった。

 鳩山博士の論文は、"Markov maintenance models with repair"(1976年にスタンドード大学で受理)というもので、Yukio Hatoyamaの英文原著論文である。

 その内容は、ロシア人の数学者、アンドレイ・マルコフにちなんで「マルコフモデル」と名づけられた確率モデルを使って、機械の保守修繕をどれくらいの時点でやればいいのかを論じたものらしい(数式だらけで私には全く分からなかったけれど)。

 で、このマルコフモデルが普天間問題で鳩山博士が下した結論と関連づけて考えると、何とも興味深い。

 それは「未来の挙動が現在の値だけで決定され、過去の挙動とは無関係である」とした理論に基づくモデル。時刻経過における空間内の離散状態予測に使われているという。

 まさか普天間の問題にも、マルコフモデルを用いたわけではないだろう。過去のいきさつとは全く関係なく、「政権が変わったんだし、僕は沖縄から移したいし、確率分析では問題ない」などと思っていたとは信じたくない。

 だが「過去のことを勉強不足」と指摘されてしまうような今回の結末と、過去の研究に共通点があるなんて、何とも皮肉。笑うに笑えない。

所信表明では「人の命を守りたい」と繰り返したが…

 もし鳩山首相が、マルコフではなく、米国の健康社会学者、アーロン・アントノフスキーに傾倒していたら、ここまでひどい結果にはならなかったのではないか、と私はかなり真面目に思っている。

 アントノフスキーとは、私が最も敬愛する健康社会学者で、人の生きる力を「Sense of Coherence(首尾一貫感覚)」という概念で説明した人物である。

 Sense of Coherence(以下、SOC)とは、人生を通じて人間が元気でいられるように作用する「生きる力」を指す。それは個人の資質だけに影響される力ではなく、生い立ちや親子関係、職場環境といった周囲との関係の中で、社会的に育まれる人間の力だ。

 幼少期では親子関係が、成人期には職場環境、とりわけ上司と部下の関係が強く影響する。つまり、どんなリーダーやトップの下で、職業経験を重ねることができたかが、生きる力にまで関係するというわけだ。

 アントノフスキーは、「SOCとは人格的、個人的な感性と信念や価値観、さらには知識、認識、理解、経験、積極的な関わりに基づいていて、SOCの高い人たちは、ストレスフルな状況に直面しても元気でいられる」と唱えている。

 鳩山首相は所信表明演説を行った際、やたらと、「人」にこだわり、「人の命を守りたい」という言葉を何度も繰り返した。辞意表明の際にも、「人の命を大切にする政治」と述べた。

 だが、鳩山首相が人を大切にしたリーダーだったとは、天と地がひっくり返っても言うことはできない。鳩山首相が企業のリーダーだとしたら、その企業で働く従業員たちはストレスの“豪雨”にさらされ、SOCを著しく傷つけられることだろう。

 そこで今回は、普天間問題の一連の流れで鳩山首相がとった言動を、SOC理論に基づいて、改めて考えてみようと思う。

 鳩山首相がとった最悪の言動を反面教師にして、働く人々の生きる力を高めるためにリーダーがなすべきことについて、読者の皆様にもご一考していただけたら幸いだ。

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「辞任なんかじゃ許されない、鳩山首相が落とした“影”」の著者

河合 薫

河合 薫(かわい・かおる)

健康社会学者(Ph.D.)

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。産業ストレスやポジティブ心理学など、健康生成論の視点から調査研究を進めている。働く人々のインタビューをフィールドワークとし、その数は600人に迫る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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