「伊東 乾の「常識の源流探訪」」

窒息する大学に新しい風を送ろう!

――常識の源流対論 薬師寺 泰蔵氏(その2)

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2010年6月15日(火)

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伊東 乾(以下、――) 「日本再生の鍵はイノベーション」とは、日本経済新聞をはじめとするあらゆるメディアで見ない日はないわけですが、歴史を客観的に見るならば、イノベーションを主要に牽引してきたのは軍事技術である事実があります。平たく言えば、戦争が技術を圧倒的に引っ張るわけですよね。

 軍事技術がいいとか悪いとか、今はそういう話ではなく、また「戦争」といっても暴力戦争ばかりでなく情報戦もあるわけで、それへの対抗策が時代の技術を引っ張っているというのは、21世紀初頭の現在も全く歴史の例外ではないと思います。

師寺 泰蔵(やくしじ・たいぞう)
財団法人世界平和研究所理事研究顧問。慶應義塾大学名誉教授。1944年8月生まれ。68年に慶應義塾大学工学部を卒業後、70年に東京大学教養学部を卒業。77年に米マサチューセッツ工科大学(MIT)政治学大学院にて政治学博士号を取得。埼玉大学や慶應義塾大学で教授を務めたほか、米カルフォルニア大学バークレー校で政治学研究員、ドイツ国際問題研究所やIFRI(パリ)で客員研究員となる。97〜2001年に慶應義塾大学常任理事、2003〜2009年に内閣府総合科学技術会議有識者議員。著書に『テクノヘゲモニー――国は技術で興り、滅びる』(中央公論社)、『「無意識の意思」の国アメリカ――なぜ大国は甦るのか』(日本放送出版協会)、『テクノデタント――技術で国が滅びるまえに』(PHP研究所)、『政治家VS官僚』(東洋経済新報社)など多数。
(写真:大槻 純一、以下同)

薬師寺 泰蔵(以下、薬師寺) そうですね。

―― 例えばかつて産業革命の頃、イギリスで「機械破壊(ラッダイト)運動」が起きて熟練工たちが「職を奪う」として織機とか蒸気機関とか壊したりした、それが焼け石にどういう水を注いだか、考えてしまうわけです。

 21世紀の今、軍事という形も含めて、新しいものを開発していこうという動因になるもの。ゲノムもそうですし、バラク・オバマ米大統領の政策転換でグリーンもそうなっていると思います。

 翻って研究職サイドでは不況だ、事業仕分けだ、で研究費がない。でも、今みたいな不況時こそ、イノベーションを進めてブレークスルーを探すべきなんですよね。

 そこからアントレプレナーシップ、「1つ発明ができました」で終わりでなくて、技術が市場にデビューして社会に普及、社会自体を変えてゆく動きにつながってゆく。そういう辺りをお伺いしたいと思うのですが。

 薬師寺 なるほどね。分かりました。

国立研究所を運営する私立大学

 薬師寺 今ちょっと、僕は本を書いていまして。割と自分がいろいろな分野を手掛けている。なぜ理科から出発して、今、国際政治まで来ているかという話をまとめています。その中に、MIT(米マサチューセッツ工科大学)の話を書いたんですけど、MITというのは純粋に私立大学ですよね。だけどMITは、第2次世界大戦の時、周りに国立研究所を持っていて、それでMITの先生がその中に入っていく形を作ったんですね。

 例えばラディエーションラボというのを作ってベータレーザーを作って、それから爆撃機からのレーザーを開発するとかね。それからインスルトゥルメーションラボというのもあって、艦砲射撃で特別攻撃隊の「神風(Kamikaze)」なんかが来る時に、ジャイロを使って自動照準にして撃つサーボメカニズムが付いていてね。それをチャールズ・スターク・ドレイパーというMIT教授が開発した。国立研究所のそういう兵器研究所がMITの横にあった。

 国立がむしろ下流にあって、それを民間が運営すると。

 ―― ああ、これはとてもいい話ですね。親方日の丸と民間が非対称な日本ではなく、スポイルズ・システムのアメリカだからこそできることと思いますが・・・。

薬師寺 それはまあ、アメリカ特有な、一種政治的な、つまり国家は援助するけど統治はしない、民間にやらせるという風土がね。

―― 日本ではなかなかできないでしょうね・・・国立**研究所を慶應義塾大学が管理する、というような話ですね。

薬師寺 MITは民間。小さい大学が国の支援でイノベーションを進めた。戦後、僕が学生の頃ですが、MITの横に国立研究所が民間会社になって、ドレイパー教授はそこの社長になってね、学生運動に遭っちゃったり何かするんだけれども・・・兵器を作っているからね。

―― ベトナム反戦の頃ですね。

薬師寺 ドレイパーはドクター・ジャイロと呼ばれた先生なんだけどさ。そういう風に先生自身がアントレプレナーになって、こういうふうに動かすわけですね。そういうのはアメリカでは割と普通で、大学というところが全体に慶應みたいに私立大学だから。そういうところから言うと、先生がアントレプレナーになって、その場合に国の金を使って、それが民営化されるという。まあ、どこかで聞いたような話なわけですね。

―― 一種の払い下げですが、明らかに国全体としての活性化は進みますね。

薬師寺 日本の場合は、国の研究所は国の大学が入ったり出たりするということだから。

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著者プロフィール

伊東 乾(いとう・けん)

伊東 乾

1965年生まれ。作曲家=指揮者。ベルリン・ラオムムジーク・コレギウム芸術監督。東京大学大学院物理学専攻修士課程、同総合文化研究科博士課程修了。松村禎三、レナード・バーンスタイン、ピエール・ブーレーズらに学ぶ。2000年より東京大学大学院情報学環助教授(作曲=指揮・情報詩学研究室)、2007年より同准教授。東京藝術大学、慶応義塾大学SFC研究所などでも後進の指導に当たる。基礎研究と演奏創作、教育を横断するプロジェクトを推進。『さよなら、サイレント・ネイビー』(集英社)で物理学科時代の同級生でありオウムのサリン散布実行犯となった豊田亨の入信や死刑求刑にいたる過程を克明に描き、第4回開高健ノンフィクション賞受賞。科学技術政策や教育、倫理の問題にも深い関心を寄せる。他の著書に『表象のディスクール』(東大出版会)『知識・構造化ミッション』(日経BP)『反骨のコツ』(朝日新聞出版)『日本にノーベル賞が来る理由』(朝日新聞出版)など。



このコラムについて

伊東 乾の「常識の源流探訪」

私たちが常識として受け入れていること。その常識はなぜ生まれたのか、生まれる必然があったのかを、ほとんどの人は考えたことがないに違いない。しかし、そのルーツには意外な真実が隠れていることが多い。著名な音楽家として、また東京大学の准教授として世界中に知己の多い伊東乾氏が、その人脈によって得られた価値ある情報を基に、常識の源流を解き明かす。

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