「製造業の英才教育」

起業は、ビジネスプランよりも、まず自分の思い

最終回 創業1年を迎えたエルステッドインターナショナル

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2010年6月23日(水)

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 2008年3月、起業のためのビジョンをレポート用紙にひたすら書き綴ったシンガポール行き飛行機に乗る前夜(「最後に“穏やかに”笑うのはメーカーだ」参照)、永守知博は実家で父母と一緒にしゃぶしゃぶを囲んでいた。

 「あの時のしゃぶしゃぶ、うまい肉だったのに、しゃべり過ぎて3切れくらいしか食べられなかったのがいまだに心残りなんです・・・」

 そんなふうに当時の感慨を語る永守だが、この時、父である永守重信は自分が経営する日本電産のグループ会社に勤めさせていた息子に言った。「そろそろ、出ていったほうがいい」。

永守知博・エルステッドインターナショナル社長。2009年4月に起業したが、「反対する人が周りに誰もいなかった」と笑う(写真:大槻純一)

 「お互いがベストの状態であるための、発展的解消です。要するに、師弟関係から親子関係に戻ったわけです。『もう教えることはないし、起業するならそろそろしたほうがいいんじゃないか』と。“免許皆伝”ですね」

 父は言った。「普通以上のキャリアを作りたかったら、普通以上のことをしないとだめだ」。もちろん、その“普通”になること自体が大変だというのが前提である。

 「高校もドロップアウトしちゃいけないし、しっかり大学も出ていなければならない。就職活動もして、きちんと仕事をしている人じゃないと、日本では“普通”になれないですよね。さらにその普通以上のことをやろうと思ったら、もうひと手間かけないと・・・」

起業しない理由がなかった

 「何か面白いこと、やりぃや」「あんたは恵まれているんだから」。父親も母親も、口を揃えて「起業したら?」と永守に言った。

 世間では、起業しようとする人間を引き止め、二の足を踏ませる“3つの反対勢力”があるという。それは、1に親、2に会社、3に妻や恋人だ。1、2、3どれをとっても反対されると確かに弱いところだが、逆にそのどの立場にしても、反対する気持ちは理解できる。

 永守はここで1、2を一気にクリアし、3も全く問題なくクリアした。妻は、反対どころか「好きなようにやればいいんじゃない」と応援してくれたほどである。

 「当時、たまたま読んだ『金持ち父さん貧乏父さん』(ロバート・キヨサキ著、筑摩書房)にずらーっと『起業しない人の言い訳』が書いてあったのですが、どれも自分には当てはまらなかったんです。若過ぎることもないし、年も取り過ぎていない。親は元気だし、子どもはいないし、大きな借金があるわけでもない・・・」

 永守自身、「やらない理由が見つからなくなってきた」。さらに、起業のきっかけにしようと思っていた「不景気」の波がそこまで来ていることも、不動産価格の下落から感じ始めていた。

 「そろそろだな」と確信した永守は、「来年の4月に、起業しよう」と心を決めた。2008年のことだった。

まず必要なのは、「カネ」と「ヒト」

 最初に取り組んだのは、ビジネスプランの策定――ではなかった。「何をやるにしても、まずはカネを集めなければ。ヒトも必要だ」と、永守は行動に移す。

 友人や知人など、頭に浮かぶほぼ全員にメールを送った。「『資金を集めているから出してくれないか』と、直球です。あと『人を紹介してほしい』と書きました」(永守)。

 ただし、仕事関係で知り合った人は一線を画した。「起業するのに、勤めていた会社から周りの人を引っ張るのは、仁義に反すると思ったので。最初に就職した富士通はもちろん、日本電産の関係者なんて、もってのほかです。そこだけは筋を通して、新たに見つけようと心に決めていました」。

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著者プロフィール

中西 未紀(なかにし・みき)

フリーライター。1979年神奈川県生まれ。お茶の水女子大学卒業後、出版社、編集プロダクションを経て現職。日経ビジネスオンラインのほか、雑誌など各媒体にてインタビュー記事を中心に活動。

永守 知博(ながもり・ともひろ)

エルステッドインターナショナル社長。1976年2月生まれ、京都市出身。2000年に明治大学大学院理工学研究科電気電子工学専攻を卒業し、富士通に入社。2005年に米マサチューセッツ州ボストンのサフォーク大学でMBA(経営学修士)取得、帰国後は日本電産グループ各社で勤務。2009年4月に製造業向け支援サービスを手がけるエルステッドインターナショナル(神奈川県川崎市)を設立、ポータルサイト「Makers-IN(メーカーズイン)」を運営する。精密小型モーターで世界トップシェアの日本電産を創業した永守重信社長の次男である。



このコラムについて

製造業の英才教育

日本の製造業が暗い。新興国の技術力の伸長は著しい。同時に、国内では後継者不足の悩みも抱える。そんな厳しい環境にあえて飛び込んでいこうとしている若き2世経営者がいる。世界トップ企業を一代で育てた父から、何を学んできたのか。普段の家庭教育に、どんな“帝王学”が潜んでいたのか。半生を通じて、日本経済を支える人材育成のヒントを探っていく。

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