これまでのあらすじ
ヒノハラ社長の団達也は、日豊自動車とヒノハラとの間に不正なカネの流れがあるとにらんで、経理部長の細谷真理に調査を依頼した。
真理は日豊自動車の研究開発部門への納品書と、高級バーの請求書に不正のにおいを感じていた。
一方、日豊の松田義一社長は、アジアで競争力を持つ、低価格のガソリンエンジン車を開発するよう、専務の湯浅に命じていた。
達也のシンガポール大学時代の親友、ジェームスは上海の投資会社で新しいスタートを切っていた。上海では、やはり大学の同窓であるリンダが「李団有限公司」という自身の会社を立ち上げ、達也との自動車部品ビジネスを実現するための準備をしていた。
達也のビジネスモデルは、「金子順平が開発した製品を日本で量産し、上海にあるリンダの会社に輸出。リンダは親戚一族のルートを使って、中国の主要メーカーに販売する。資金はジェームスの会社に出資を頼み、3年後をメドに株式公開する」というものだった。
ヒノハラ経理部
「不正取引かどうか断定はできませんが、気になる取引がありました」
そう言って真理はA4の紙1枚にまとめたサマリーを達也に渡した。達也はその資料に丹念に目を通した。
「ヒノハラは研究開発部門にも部品を納品していたんだね。でも変だな。なぜ、ヒノハラの製品を研究部門が購入するのかな」
すると、真理はすかさず用意したコピーの束を達也に渡した。
「これが納品書の控えです。内容を見てください」
納品書には何種類もの部品の名称が印字されていた。だが、その内容をよく見るとそれらはヒノハラで製造されたものではなく、すべて他社からの購入品だった。
「ヒノハラが専門商社から仕入れて、日豊自動車に納品していたんです」
それらは試作品を作る際に使う電子部品や小型モーターなどで、どれも汎用品だが、あまり量が出ない特殊部品で、単価の高いものばかりだった。
「ところで、ヒノハラは開発部へは年間いくら売り上げているの」 と、達也が聞いた。
「約20億円です」
「そんなに多いんだ…」
達也はその額に驚いたが、すぐに思い直した。日豊自動車は年商5兆円の会社なのだ。おそらく研究開発部門の予算は1000億円を超えるだろう。20億円など、たいした金額ではない。
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