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日本的経営の本当の崩壊が始まる

役員報酬の開示が日本企業にもたらす衝撃

2010年7月6日(火)

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 2010年3月期の決算から1億円以上の報酬を受け取った役員の氏名や金額を有価証券報告書に記載することが義務づけられ、開示対象となった役員の氏名と報酬額が次々と明らかになった。

 日本経済新聞の2010年7月3日付け朝刊の記事によると、法定開示期限である6月30日までに出そろった有価証券報告書を集計したところ、1億円以上の報酬を得た役員は166社の計288人。報酬の平均金額は1億6600万円だったという。

 この件で、私はこれまでのメディアの対応に疑問を感じてきた。どこの企業の経営者がいくらもらっている。こうした興味本位の報道はあっても、役員報酬の開示の意義については、ほとんど論じていないからだ。

 実は、役員報酬の開示は日本企業の改造を一気に推し進める起爆剤となる可能性を秘めている。このコラムのタイトルを「日本企業改造論」を銘打ったからには、これを論じないわけにはいかない。

 前回までに寿命の尽きた事業から新たな成長事業への乗り換え、私が編み出した言葉を使えば、事業立地を変える転地の必要性を訴え、転地をしない場合にどのような窮地に陥るのかを、百貨店の例を基に考察した。

 本来であれば、前回の最後で予告した通り、転地の具体的な方法や留意点といった各論に入っていくべきなのだが、今回は緊急の番外編といった形で役員報酬の開示のインパクトについて検討することにしたい。

欧米の経営者が巨額の報酬を受け取る理由

 興味本位の報道の中で、経営者たちの多くは、「自分の得ている報酬の額は、欧米などの経営者に比べればまだまだ低い」と弁明した。

 それは確かに事実である。しかし、より重要なのは彼我の報酬の格差ではなく、日本企業のトップたちが得ている報酬の額に対して、その下で働く社員たちが納得するかどうかだろう。大半は納得しないと私は見る。

 理由は2つある。まずは、日本と欧米の経営者の成り立ちの違いだ。

 「自分の報酬はまだ低い」と弁明した日本の経営者たちはそもそも、欧米企業の経営者の報酬について誤解しているのではないかと思う。

 彼らの報酬は、労働に見合った対価ではない。彼らがリスクを取って経営者を目指すレースに参加することへのインセンティブなのである。

 というのも、欧米で経営者の候補になる人は、既に実績を上げて富を成した人に限られる。そうでなければ、経営者になるためのレースからとっくに脱落している。

 経済的に成功していて、すぐにリタイアしてもお金に困ることはない。そうした人に家族や快適な暮らしを犠牲にし、さらにレースの途中で脱落して心理的に傷つく可能性があることも覚悟のうえで経営者を目指してもらうには、中途半端な報酬では困難である。

 「あの企業の経営者の報酬を上回りたい」「(米経済誌の)フォーチュンの資産家ランキングでもっと上に行きたい」──。

 このような強欲とも言うべき野心を満たすだけの巨額な報酬が用意されるのは、候補者にレースへの参加を促すためなのである。

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「日本的経営の本当の崩壊が始まる」の著者

三品 和広

三品 和広(みしな・かずひろ)

神戸大学大学院経営学研究科教授

専攻は経営戦略・経営者論。1989年米ハーバード大学文理大学院企業経済学博士課程修了、同大学経営大学院助教授に就任。北陸先端科学技術大学院大学助教授などを経て、2004年から現職。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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